関西テレビ、AI字幕制作でABU賞を受賞 Lightblue活用での自然な翻訳が評価

2025年12月16日、日本の民放局である関西テレビ放送が、AIアシスタント「Lightblue」を活用した映像制作の取り組みにより、アジア太平洋放送連合(ABU)主催のABU賞を受賞した。生成AIを字幕制作に本格導入した点が評価されている。
関西テレビ、AI字幕制作でABU賞を受賞
受賞対象となったのは、女子マラソン前田穂南選手の挑戦を描いたドキュメンタリー番組『Honami Maeda: A Life of Running』である。
本作品の海外展開にあたり、関西テレビは東京大学発スタートアップであるLightblueのAIアシスタントを制作工程に組み込み、字幕制作のプロセスを刷新した。
ディレクターはLightblueと対話しながら英語字幕を生成し、日本語ナレーションに込められた意図や感情を言語化した上で、複数の英訳候補を比較検討した。
「走る道」という表現に対し、「a life of running」「the journey of a runner」などの選択肢を提示させることで、直訳にとどまらない自然な表現を選び取ったという。
また、Avid Media Composer(※)で自動生成した日本語文字起こしデータをAIに取り込み、生成した英訳を編集シーケンスに自動反映する独自のワークフローを構築。
さらに、667ページに及ぶキャプションデータを活用し、必要なシーンをAIが瞬時に抽出する仕組みも導入した。
従来は1カット探すのに1時間以上を要していた工程が大幅に短縮され、制作効率と品質の両立が実現した。
※Avid Media Composer:放送・映画業界で広く使われるプロ向け映像編集ソフト。
AI字幕が拓く海外展開の利点と課題
今回の取り組みが示すメリットの一つは、翻訳コストや時間を抑えながら、作品の「感情の温度」を一定水準で保てる可能性が示された点にある。
字幕制作がボトルネックになりがちだった海外展開において、AIが工程の一部を担うことで、地方局であっても国際市場を視野に入れた制作に取り組みやすくなると考えられる。
こうした動きは、日本の放送業界に新たな選択肢を提示した事例と位置付けられる。
一方で、AI翻訳に過度に依存することへの懸念も否定できない。文化的背景や競技者本人のニュアンスを誤って解釈すれば、作品価値を損なうリスクが生じる。
そのため、最終的な判断や監修を人が担う体制をどのように維持するかが、今後の運用上の論点になるだろう。
それでも、AIを「代替」ではなく「伴走者」と位置付けた今回の制作モデルは、放送制作の在り方の一例として注目される。
Lightblueのような法人向けAIエージェントが現場に浸透すれば、日本発コンテンツの海外発信が、より柔軟かつ継続的に行われる環境が整っていく可能性がある。
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