キリン、嗜好AI「FJWLA」を開発 ビール香味開発の精度を革新

2025年12月15日、キリンホールディングスは独自の嗜好AI「FJWLA」を発表した。ビール開発現場で導入予定で、消費者の味覚データと成分分析を統合し、香味改善の効率化を図る狙いがある。
AIで香味成分を解析、ビール開発に即時反映可能に
キリンの飲料未来研究所は、消費者が感じる「おいしさ」に影響する重要成分を特定する嗜好AI「FJWLA/フジワラ(Flavor Judgment for Whole Liking Analysis)」を開発した。
従来の醸造家の経験と限定的な分析に頼った手法に比べ、官能評価の改善点を成分レベルで把握できる点が特徴である。
FJWLAは、消費者調査データと化学成分分析データを統合してAIが解析する仕組みで、どの成分が味覚に寄与しているかを定量化する。これにより、醸造家は理想の香味を実現する上での重点成分を迅速に把握し、試作設計や工程条件の最適化を効率化できる。
導入は2026年3月以降発売のビール類から開始され、将来的にはRTD(Ready to Drink)やワイン、清涼飲料にも順次拡張される見込みだ。これにより、キリンは香味開発全体の高度化を進める計画である。
また、FJWLAを中心とする嗜好解析技術とデータ基盤は「嗜好プラットフォーム」と総称され、消費者調査から市場投入後の改善まで一貫して支援する体制を構築する。
キリングループは「KIRIN Digital Vision 2035」の方針に基づき、飲料のみならず食から医療にわたる領域で持続可能な成長と社会価値創出を目指す姿勢を示している。
嗜好AI導入の波及効果と開発効率の加速
「FJWLA」の導入により、醸造家の経験則だけでは難しかった香味の定量分析が可能になり、試作回数の削減や開発期間の短縮が見込まれる。消費者の嗜好傾向を成分レベルで理解できることは、商品開発の精度向上につながると考えられる。
一方で、AI解析に頼りすぎることで、醸造家独自の感覚や創意工夫が軽視されるリスクもある。嗜好データは過去の蓄積に依存するため、変化する消費者嗜好への対応が遅れる可能性も否定できない。
さらに、パーソナライズ化を進める過程で、消費者データの取得や管理に関する倫理的・法的課題も浮上するだろう。これらの課題を適切に管理しつつAIを活用することで、開発の高速化と価値創造の両立が可能になるとみられる。
総じて、FJWLAはビール開発の精度向上と消費者体験の革新を同時に狙える技術であり、業界全体における香味開発のあり方を変える可能性を秘めている。醸造家の知見とAI解析の融合が今後の市場競争力を左右する要因になると考えられる。
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