三菱電機が物理モデル組み込みAIを実用化へ 少量データで劣化を高精度推定する新手法

2025年12月10日、三菱電機(日本)は製造機器のわずかな学習データから劣化を高精度に推定できる「物理モデル組み込みAI」を開発したと発表した。
AIと物理法則を統合するNeuro-Physical AIの成果で、保守コスト削減や品質維持に寄与する技術として注目される。
物理法則とAI統合で少量データから劣化を高精度推定
三菱電機は、機器の挙動を理論式で表す物理モデル(※)とAIを統合する新技術を開発した。
この技術は三菱電機独自の、現場での知見・ノウハウと物理法則を融合したフィジカルAIであるNeuro-Physical AIの開発成果だという。
従来の劣化推定は、専門家が数式やシミュレーションを用いて仕組みを一から設計する必要があり、運用に時間と労力を要していた。
また、AIで網羅的に学習する手法も、運転条件や個体差を反映させるためには大量のデータが不可欠で、現場導入の壁となっていた。
こうした課題に対し、今回の技術は、対象機器の挙動を物理モデルによってあらかじめ学習させ、個体差や環境条件に関するわずかなデータのみで劣化状態を推定できる。
従来は物理モデルと実測データの重みづけが固定的で最適化が困難だったが、三菱電機はAIに動的調整機能を持たせることで推定精度と適応性の両立を実現した。
同社は、この技術が部品交換の最適化や重大故障の抑制に寄与すると説明しており、予防保全の高度化に向けた重要な基盤になると見込んでいる。
※物理モデル:機器の挙動を物理法則や数式で再現する理論的仕組み。AIに組み込むことで、物理的整合性を保ったまま推定を行う基盤となる。
予防保全の高度化へ 低コスト化と導入容易性が鍵に
本技術が普及すれば、劣化推定に必要なデータ量を大幅に削減でき、設備ごとに膨大な再学習を行う従来方式の課題が緩和される。
生産ラインごとに条件が異なる現場でも導入が進みやすくなり、保守計画の精緻化や突発故障の削減につながると考えられる。
保守コストの低減は、中小製造業にとって特に大きな恩恵をもたらす可能性がある。
一方で、物理モデルの正確性が推定精度に直結する点はリスクとなり得る。モデル化が難しい設備や、複雑な外乱が多い環境では、AIの調整能力が十分に機能するか検証が必要となるだろう。
また、現場用途に合わせたモデル構築の負荷をどこまで軽減できるかが今後の普及速度を左右すると考えられる。
今後は、同社のAIブランドであるMaisartとの連携を通じ、幅広い設備への適用が期待される。機器の賢さを引き出すNeuro-Physical AIの発展は、予防保全をさらに向上させる可能性が高いと言える。
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