彦根市、市民問い合わせをAI化へ アンドドットが実証実施を発表

東京都渋谷区のアンドドット株式会社は、滋賀県彦根市にAI問い合わせシステム「Ork for 行政」を試験提供したと発表した。市庁内のみで運用する非公開の実証で、市民対応の効率化と職員業務の最適化を狙う国内プロジェクトである。
問い合わせ自動化で自治体の構造課題を一括で緩和
2025年12月9日、アンドドットが提供する「Ork for 行政」が、滋賀県彦根市にて実証実験として提供されたと発表した。「Ork for 行政」は自治体サイトを丸ごと読み取り、内容を自動で学習するAIシステムだ。
彦根市は以前から同社と連携協定を結び、AI人材教育を先行して進めてきた。今回の実証は、その第二弾として問い合わせ業務の高度化を検証する位置づけになる。
背景として、自治体には二つの構造的課題があった。
第一に、市民が必要な情報にたどり着きにくいサイト構造が長年の悩みとなっていた。検索性の低さから電話や窓口での問い合わせが一定量発生し、職員の負荷が慢性的に高止まりしていたのである。
第二に、サイトの情報鮮度を常に維持することが難しく、担当者が全記事を把握しきれない状況が続いていた。
今回導入されたAIは、URLを登録するだけで全ページを自動でクローリング(※)し、内容を維持管理する点が特徴だ。
Q&Aデータ作成やチャット設計といった手作業は不要で、365日24時間、最新情報に基づいた回答を即時生成できる仕組みになっている。問い合わせ件数の抑制だけでなく、市民サービスの均質化も期待される。
※クローリング:Webサイト上のページを自動巡回して情報を収集する技術。AIの学習用データ生成にも利用される。
AI化は行政運営をどう変えるか 期待とリスクの両面
AIによる問い合わせ業務の自動化は、自治体のデジタル化を次の段階へ押し上げる可能性がある。
職員の業務を圧迫してきた一次対応をAIが担うことで、限られた人員を企画立案や対面相談など高度な業務へシフトさせられる点は大きい。特に、地方自治体では慢性的な人手不足が続いているため、効率化によるメリットは顕著になると考えられる。
一方で、運用には注意すべき点もある。
AIが誤った情報を返すリスクや、行政特有の文脈を十分に理解できない可能性は残る。そのため、初期段階では職員による検証と改善のサイクルをしっかりと行い、自動化と人の監督を両立させることが重要になりそうだ。
今後、この種のシステムは自治体DXの基盤へと近づくと見られる。これまで感覚的にとらえていた市民ニーズを定量的に把握できれば、予算配分や広報戦略の精度も高まるはずだ。さらに、問い合わせの傾向を把握することで、行政文書やサイト構造そのものの改善にもつながるだろう。
今回の彦根市の検証は、自治体DXの新たな可能性を示す一歩であり、その成果は全国各地の行政サービス改善へと波及していくことが期待される。
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