富士通が空間World Modelを開発 人とロボットの協調行動を予測

2025年12月2日、富士通はPhysical AIの研究を加速する空間World Model技術を開発したと発表した。人とロボット、モノの未来状態を時系列で予測し、協調動作を可能にする点が特徴だ。CES2026でデモ展示し、2026年度中に実証を進める。
人とロボットの未来行動を予測し協調を実現する新AI基盤
富士通が開発した空間World Model技術は、複雑な実世界の動きをリアルタイムに把握し、先の状態を予測するAI基盤である。従来のPhysical AIは、通路やレイアウトが固定化された工場や倉庫では有効だが、家庭やオフィスなど可変性の高い環境では適応が難しいとされてきた。今回の技術は、空間内の人やロボット、モノの相互作用を3Dシーングラフ(※)として統合し、動的な空間の“未来”まで推定できる点が特徴となる。
同社はこれまで商業施設での人流解析や防犯分野での異常検知など、空間認識技術を蓄積してきた。2025年4月には「空間ロボティクス研究センター」を設立し、Physical AIの実装研究を本格化させている。本技術はその成果として位置付けられ、空間中の複数のカメラやロボット視点を統合し、歪みや視野差の影響を抑えながら空間全体を把握できるようにした。
さらに、時系列で学習したWorld Modelにより、多主体の行動意図推定が可能になる。これにより、自律ロボット間の衝突回避、最適な協調ルートの生成、人の動きを踏まえた安全確保などが実現し得る。学術的な公開ベンチマークデータでは、他者の行動意図推定精度が従来の3倍(同社比)に向上したとする。同社はCES2026でデモを公開し、2026年度内にFujitsu Technology Park等で技術実証を進める予定だ。
(※)3Dシーングラフ:空間内の物体や人、ロボットを点群・属性・関係性として構造的に表現する手法。複数視点の映像を統合し、空間全体の状態をモデル化する用途に用いられる。
協調ロボット社会への布石 生産性向上とリスク管理の両立が鍵
空間World Modelが示す方向性は、ロボットが「環境を読む」段階から「環境の未来を推論する」段階へと移りつつある点にある。
特に労働力不足が深まる製造・物流・サービス領域では、ロボットの自律度向上が現場の生産性や安全性の向上に寄与する可能性が指摘されている。
複数ロボットが同じ空間を共有し、人との距離感や動線を最適化するようになれば、協働環境の設計そのものが変化する余地もあるだろう。
一方で、空間の広範なセンシングや行動予測が進むほど、プライバシー保護やデータ管理の重要性は一層高まる。
特にオフィスや公共空間では、どこまで観測し、どの段階で匿名化を行うのかといった統制方針の整理が求められそうだ。
また、予測モデルを前提としたロボット制御が普及すれば、誤予測時の安全性確保や責任分界に関する制度設計など、社会的な検討課題も浮かび上がる。
その一方で、空間全体を理解するAIが普及すれば、ロボットが「指示を待つ存在」から「自ら環境を判断し行動計画を立てる存在」へ近づくとの見方もある。
今回の富士通の技術は、こうした変化に向けた基盤技術の一つとして注目される。
今後は住宅や商業施設、医療・介護領域への応用可能性もあり、ロボットとの共存がより自然なものへと変わる展望が開けつつある。
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