米35州がAI州法阻止に反発 連邦基準未整備で規制主導権争いが激化

2025年11月25日、米国35州とコロンビア特別区の司法長官が、AI関連の州法を阻止しないよう求める書簡を連邦議会に送った。
州司法長官が連邦に反対 AI規制阻止案めぐり攻防が表面化
米国35州とコロンビア特別区の司法長官は25日、連邦議会指導部に宛てて書簡を送り、AI関連の州法を妨げないよう求めた。書簡は、AIが無規制で拡大すれば「壊滅的な結果を招く」と指摘し、州レベルの独自規制を維持する必要性を明確に訴えている。背景には、連邦議会がAIに関する全国的な統一基準をいまだ制定していない現状がある。
AI業界は、州ごとに規制内容が異なる「つぎはぎ状態」を懸念し、連邦による一括ルールを要望している。しかし州側は、地域の事情に即した規制が必要だとの立場を取り続けており、規制権限を連邦に奪われることに強く反発している。ニューヨーク州のジェームズ司法長官は「住民を守るため、各州は自ら規制を制定し施行できるべきだ」と述べ、州権限の確保を主張した。
すでに一部の州で、同意のない性的AI画像生成を犯罪とする法律や、政治広告でのAI利用を制限する規定が導入されている。特に、AI企業が集積するカリフォルニア州は2026年から、モデル訓練データの情報開示や生成物の検出手段の提供を企業に義務づける新法を施行する方針で、州主導の規制はさらに拡大しつつある。
一方、連邦議会では今年、AI法を阻止する動きに対し上院が99対1で反対票を投じたものの、実効性のある統一基準づくりには至っていない。こうした中、トランプ大統領は先週、国防権限法にAI州法阻止条項を追加するよう求め、州との対立を先鋭化させている。
州独自規制が広がる未来 保護強化と制度混乱の狭間で揺れるAI産業
今回の書簡が浮き彫りにしたのは、AI規制の主導権をめぐる州と連邦の溝の深さである。州が独自にルール整備を急ぐ背景には、ディープフェイクや生成コンテンツの悪用など、新興リスクへの迅速な対応が求められている現状がある。被害の発生速度を考えれば、地域事情に合わせた即応的な規制を打ち出せる点は、州主導の枠組みが持つ明確なメリットといえる。
一方で、州ごとに規制の方向性や厳しさが大きく異なる状況は、全国で事業展開する企業にとって無視できない負担になりつつある。
特に、訓練データの開示義務や透明性確保を求める州法が増えれば、法務・開発の両面で追加対応が発生し、中小のAI企業ではコスト吸収が難しいとの指摘が出ている。規制の複雑化によって参入障壁が高まり、結果としてイノベーションの速度が鈍化する可能性も懸念されている。
また、連邦レベルで統一基準の策定が遅れていることも、州主導の規制拡大に拍車をかけている。連邦が明確な方針を示せない状況が続けば、企業は“規制の緩い州”へ開発拠点を移し、AI産業が地域的に偏在するリスクが指摘される。
逆に、厳格な州法が全国的な議論を促し、結果として連邦基準づくりの後押しにつながる可能性もある。州の動きが連邦の制度設計を刺激するという二層的なダイナミズムが、今後さらに強まる可能性は否定できない。
州と連邦の立場の相違は、どの水準でAIの透明性や安全性を担保すべきかという価値観の違いに根ざしており、短期的に収束する見通しは立てにくい。
統一基準が示されないまま州独自規制が積み上がる状況が続けば、企業側は制度的な不確実性に直面し、ユーザーにとってもサービスの提供地域や品質に格差が生じる恐れがある。
こうした環境下では、AI活用を支える社会的基盤そのものが安定性を欠くことになり、産業の持続的な発展に影響を及ぼす可能性がある。
最終的に、AI規制の方向性を左右するのは、連邦と州の調整がどこまで進むかにかかっている。いずれのアプローチにも利点と課題が存在するなか、企業・ユーザー・政策当局がどこまで合意形成を進められるかが、今後のAI産業における競争環境と革新のペースを大きく決定していくとみられる。
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