富士通と山口大学、衛星向け低電力コンピュータ技術を開発　宇宙線の影響を抑え“10分処理”を実現

2025年11月27日、山口大学と富士通が小型SAR衛星向けに低電力で準リアルタイムの画像処理を実現する「軌道上エッジコンピューティング」技術を開発したと発表した。
衛星上で10分以内に画像を生成できる環境を整える。

10分で画像を生成、小型衛星で高耐性GPU運用を実現

山口大学と富士通は、SAR（合成開口レーダー）衛星向けに開発した新技術により、衛星上での画像生成を10分以内で完結させる環境を整えた。
冗長構成GPUを活用し、宇宙放射線による誤作動を検出しながら処理を進められる点が特徴だ。
小型衛星が利用可能な電力の目安とされる20W程度で作動し、次の衛星が巡回する前に生データを画像に変換し、画像から観測量を検出することまで可能になった。

これまで衛星データは地上局に送信してから解析されるのが一般的で、活用まで数時間を要することが課題だった。
今回の技術では、プロセッサを二重化して計算結果を相互照合する構成を採用し、エラー検出と再計算を含めても10分以内に処理が収まるよう消費電力を最適化することで、人工衛星での高速なデータ処理を可能にした。

また、LinuxやPythonを前提とした開発環境を整備し、宇宙放射線に対する耐性を強化するプログラミングライブラリ「FRSORA」を構築。ジョブ分割による再計算の効率化にも成功した。
これにより、衛星プロトタイプを用いた検証では、海上の風速分布を数百メートル単位で推定する画像処理が成立したという。

リアルタイム衛星解析が進展　災害監視や物流最適化に波及も

衛星上で高度な解析を完結できることは、災害対策や船舶運航の分野にとって大きな意味を持つ。
海上風速の即時把握が可能となれば、高波リスクの早期通知や航路最適化に寄与する可能性が高い。森林火災、違法漁業、農作物被害など、即応性が求められる観測領域にも応用範囲が広がると考えられる。

メリットの一方で、軌道上エッジ処理の高度化には課題も残る。画像から注目する観測量に変換するL2処理には、大気データなど地上情報の統合が必要となるケースが多いため、衛星のみで補正を完結させるには追加研究が欠かせない。
富士通と山口大学は、今後これらの補正処理を衛星上で実装する研究を進め、実際の人工衛星での実証も計画している。

富士通が2026年2月に公開予定のFRSORAは、民間衛星事業者や研究機関による衛星データ処理の標準化を後押しする可能性がある。
低電力環境下での高速処理やエラー耐性強化が一般化すれば、光学衛星やマルチスペクトル衛星にも展開が期待され、軌道上エッジコンピューティングは新たな観測プラットフォームとして重要性を増すと見られる。

プレスリリース

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