EUがAI規制の本格適用を延期へ 企業負担と国際競争力の調整局面に

2025年11月19日、欧州連合(EU)欧州委員会は、世界初の包括的AI規制法の本格適用を当初の2026年8月から最大2027年12月まで延期する方針を発表した。欧州企業の反発や米国からの批判が強まる中、EUは規制適用のスケジュールを再調整する。
EUが高リスクAIへの規制適用を最長1年4カ月延期
EUが適用延期を決めたのは、AIを4段階で分類したうち上から2番目の「高リスク」領域に対する規制である。採用選考に用いるAIシステムや医療ソフトウエアなど、社会的影響が大きい用途が対象で、企業には人による監視体制やリスク軽減のための適切な管理が求められている。違反すれば制裁金が科される仕組みである。
しかし欧州企業からは、急速に進むAI開発競争の中で「規制強化が技術革新を阻害する」との懸念が噴出していた。米国ではトランプ政権がEUの規制路線を強く批判している。
こうした状況の中、欧州委は「企業が円滑に対応できる準備期間を確保する必要がある」と判断した。経済を担当するドムブロフスキス欧州委員は「これは欧州企業にとってより有利な事業環境を創出する第一歩だ」と述べ、今回の延期を経済政策上の判断と位置付けている。
適用延期が示す課題 技術革新の加速とリスク管理の両立は可能か
今回の延期は、欧州企業がAI開発を進める上で一定の追い風となるとの見方がある。高リスクAIの要件を直ちに満たすための監査体制や人材確保に伴うコスト負担が一時的に軽減されれば、研究開発への投資を優先しやすくなる可能性があるためだ。世界的なAI競争が激化する中、今回の措置は欧州が技術力で後れを取らないための猶予期間として機能するとの指摘もある。
一方で、規制の本格適用を遅らせることにはリスクも伴う。高リスクAI(※)は社会への影響が大きく、透明性や安全性が十分に確保されないまま運用が広がれば、不当な採用評価や誤診といった問題が深刻化する恐れがある。規制の空白期間が長引くほど、事故やトラブルの対応が後手に回る可能性が高まると懸念されている。
また、EUはGDPRを通じて「国際的な規制モデル」を築いてきたが、今回の適用延期により、その主導権が揺らぐ可能性も指摘される。米国やアジア諸国が独自ルールの整備を進めれば、AI規制の基準が地域ごとに分断され、企業が地域対応の負担を抱えるリスクもある。
今後EUがどのタイミングで最終適用に踏み切り、企業負担と安全性確保のバランスをどこまで最適化できるかは、世界的なAIガバナンスの方向性を占う重要な要素となるだろう。
※高リスクAI:EUがAIの使用領域を4段階で分類する枠組みの一つ。採用、人事、医療、公共サービスなど、社会的影響が大きい分野のAIを指し、厳格な監視と管理が求められる。
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