FRBバー理事、金融中核業務へのAI利用に警鐘 規制枠組みの不備が国際的課題に

2025年11月12日、米連邦準備制度理事会(FRB)のバー理事は、シンガポール・フィンテック・フェスティバルで講演し、金融セクターが人工知能(AI)を中核業務に導入する動きに対し、明確な規制枠組みの整備が必要だと考えを述べた。
FRBがAIの中核業務活用に懸念 ガードレール整備を要請
バー理事は講演で、米国の金融機関が顧客サービス、文書要約、営業・マーケティング、広報など非中核領域でAIの活用を急拡大させている現状を示した。そのうえで、近年は生成AIを中核業務に組み込む試みも進みつつあると指摘した。こうした動きは効率化を後押しする半面、金融システムの安定性に直結するため、従来とは異なる監督手法が不可欠になるという。
同理事は「米国に限って言えば、振り子が振り切れ、ガードレールが低くなり、過剰なリスクにさらされる事態を懸念している」と述べ、リスク管理の緩和が市場全体に連鎖する恐れを強調した。
特に、AI同士が自動で取引を行う環境では、ボラティリティーの急拡大や連鎖的な市場混乱が生じる可能性があると説明した。また、偏ったデータで訓練されたモデルが、金融システムに新たなバイアスが入り込む危険性にも言及した。
さらに、AIが市場操作や共謀行為によるリスクを助長しないよう、政策当局が担保する必要があると述べた。
AI活用の利点とシステムリスク 国際的な規制設計が焦点に
金融業務へのAI導入は、業務効率の向上やコスト削減につながりやすく、長期的には生産性向上に寄与するとの指摘がある。
大量データを迅速に処理し、自動化された報告作成を行える点はホワイトカラー業務の負荷軽減に貢献する可能性があり、企業の競争力確保という観点でも注目されている。生成AIの応用範囲も拡大しており、顧客体験の向上やサービス開発の加速につながるとの見方も広がる。
一方で、AIが中核機能に深く組み込まれるほど、リスクが連動・増幅しやすくなるとの懸念も根強い。モデルの不透明性が残ったまま信用リスク管理に用いられた場合、誤った判断が組織を超えて市場に影響を及ぼす可能性が指摘される。
アルゴリズム取引の高度化によって、瞬間的な価格変動が従来より大きくなるリスクを懸念する声もある。こうした「ブラックボックス化」や「取引の高速化」は、既存の監督フレームワークだけでは対応が難しいとの見方がある。
今後は、AIモデルの透明性や説明可能性を確保する取り組みが重要性を増し、モデル監査や検証手法を国際的に整備する動きが強まる可能性もある。
また、国境を越えてデータが流通する金融の特性上、各国が異なるルールを敷けばコンプライアンス負担が増し、イノベーションの妨げとなり得る。こうした背景から、国際的なガイドライン策定や共同監督の枠組みを模索する局面に入っているとの見方も出ている。
革新と安定の両立は容易ではないが、AIが金融の競争力を左右する要素となる中で、適切な規制と柔軟な運用をバランスさせるガバナンスのあり方が今後の焦点になると見込まれる。
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