Wikipedia、AI企業に「帰属と支援」を要求 人間知識の維持に危機感

2025年11月10日、米ウィキメディア財団は声明を発表し、生成AIの学習にWikipediaのデータが広く利用されている現状を踏まえ、AI企業に対し「帰属表示(アトリビューション)」と「資金的支援」を求める方針を示した。
AI時代における人間主導の知識創造の維持を訴えている。
AI時代に「人間の知識」を守る要請 Wikipediaが帰属と支援を呼びかけ
ウィキメディア財団は、「AIは人間の知識なしには存在し得ない」と強調した。
生成AIが出力する文章や画像の多くは、実際にはボランティア編集者が議論や検証を重ねて形成したWikipediaの知識を基盤としているという。
財団は、AIが人間の情報源に依存しながらも、貢献者への還元が十分でない現状に懸念を示した。
同財団は、AIモデルが「継続的に更新される人間の知識」を取り込まなければ精度低下を招くと警告。
Wikipediaを支える数十万のボランティアは日々編集・検証を続けており、財団は法務・技術面でサポートするのみで、内容は全てボランティア編集者の手で作られていると説明した。
声明では、AIが既存知識を要約することはできても、「議論や発見、現場取材」といった創造的行為を代替できないと指摘。
特にWikipediaは300以上の言語で展開され、地域ごとの文化的文脈を反映しており、これが多様で公平なAIモデルの発展にも寄与していることを示した。
さらにWikipediaの透明性は他の情報源と一線を画すとする。すべての利用者が同一の情報にアクセスでき、出典や編集履歴は公開されている。
これに対し、生成AIは「ハルシネーション(虚偽生成)」の問題を抱え、信頼性を損ねているとした。
財団はAI企業に対し、知識の出所を明示する「帰属表示」と、有料API「Wikimedia Enterprise」を通じた正規アクセスを促し、知識エコシステムを支える資金循環を求めている。
知識とAIの共存へ課題も 倫理・経済両面での再設計が焦点
Wikipediaの要請は、人間知識への敬意と支援を促す動きとして評価される一方で、AI業界に新たな課題を突きつける。
AI企業が「無料で得られる公共データ」を前提に成長してきた構造を見直す必要があり、帰属表示の基準づくりやデータ利用料の分配方法など、具体的な枠組み設計が求められるだろう。
この動きのメリットは、AIがより検証可能で透明な知識体系を形成できる点にある。
データ提供者への適正な対価が確立されれば、AI開発と人間知識の共存が持続的に進む可能性が高い。
一方で、AI企業の負担増や利用制限が進めば、開発スピードが鈍化する懸念もある。
とくにスタートアップにとってはコスト負担が重く、知識共有の自由を損なうリスクも残る。
Wikipediaは2026年1月15日に25周年を迎える。財団は、AIが溢れる時代だからこそ、人間の知識が社会の信頼を支えるとし、次の25年も「自由で検証可能な情報」を提供し続ける姿勢を示した。
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