アイルランド中銀、コインベースに約25億円の罰金 監視不備で暗号資産業界初の制裁

2025年11月6日、アイルランド中央銀行は、暗号資産取引所コインベースの欧州法人「Coinbase Europe Limited」に対し、マネーロンダリング防止(AML)義務違反で約2,146万ユーロ(約38億円)の罰金を科したと発表した。
暗号資産企業への制裁としては同国初のケースとなる。
監視システムの不備で3,000万件超を未審査 AML体制不備に厳罰
アイルランド中央銀行の発表によると、コインベース・ヨーロッパは2021年4月から2025年3月の間、AML(マネーロンダリング防止)およびCFT(テロ資金供与防止)に関する取引監視義務を履行していなかった。
原因は監視システムの設定不備であり、その結果3,044万件超、総額1,760億ユーロ(約32兆円)相当の取引が適切にモニタリングされず、期間中の全取引の約31%を占めていたという。
同社はその後、3年近くをかけて未監視の取引を再調査し、2,708件の不審取引報告書(STR)を金融情報機関に提出した。
報告内容にはマネーロンダリング、詐欺、薬物取引、サイバー攻撃、児童搾取など深刻な犯罪の疑いが含まれていたとのことだ。
中央銀行のコルム・キンケイド副総裁は、「システム障害が発生した場合には、遅滞なく中央銀行に報告することが不可欠であり、これによりリスクを管理・軽減するための適切な措置を講じることができる」と強調し、暗号資産企業に対し、即時かつ継続的な監視の徹底を求めた。
今回の制裁は、行政制裁手続き(ASP)の中央銀行が事実関係に争いがない場合に和解手続きを通じて制裁を迅速化する制度である「Undisputed Facts Settlement Process」に基づいて行われ、当初の罰金額3,066万ユーロから30%の減額が適用された。
制裁は高等法院の承認を経て正式に確定する見通しである。
暗号資産業界の透明性向上へ 信頼回復と規制強化の両立が課題
今回の事案は、アイルランド当局が暗号資産業界に対する監督強化へ踏み出した象徴的な出来事といえる。
AML違反の罰則適用は、金融犯罪対策の信頼性を高める一方で、取引所やウォレット事業者に新たなコンプライアンス負担を課す可能性もある。
暗号資産は匿名性と国際的な流通性を併せ持つことから、資金洗浄の温床となり得る。
そのため当局は、今後欧州連合(EU)の新規制枠組みを活用し、監査や報告義務の厳格化を進める方針だ。
一方で、規制強化は業界全体の信頼を取り戻す契機にもなりうる。
コインベースを含む大手事業者が透明性と説明責任を高めれば、伝統的金融機関との協業や機関投資家の参入を促進する可能性がある。
ただし、システム不備を理由とする制裁が続けば、暗号資産企業の監督強化が過剰と見なされる懸念もある。
今後は、犯罪防止とイノベーション促進の両立が問われる局面に入ると見られる。
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