金融庁、決済高度化プロジェクトを設立 ブロックチェーン決済の実証支援強化

2025年11月7日、金融庁はFinTech実証実験ハブ内に、決済分野に特化した新組織「決済高度化プロジェクト(PIP: Payment Innovation Project)」を設立した。ブロックチェーン技術を活用した次世代決済の実証支援を強化し、金融イノベーションの加速を狙う。
ブロックチェーン決済の実験支援を専門化、金融庁が新プロジェクト始動
金融庁は、フィンテック企業や金融機関が新しい決済技術を検証する際の法的・制度的課題を支援する目的で、「決済高度化プロジェクト(PIP)」をFinTech実証実験ハブ内に設置した。
同庁は2017年9月(平成29年)にFinTech実証実験ハブを設け、革新的な金融サービスの実験における法令解釈や監督上の論点整理を行ってきた。
しかし、クロスボーダー送金、セキュリティトークンのDvP決済(※1)など、ブロックチェーンを活用した送金・清算分野では技術の進展が速く、より専門的な支援体制の必要性が高まっている。
PIPでは、決済制度に詳しい担当者を配置し、先端領域での実証を重点的にサポートする。
実験申込は専用メールアドレスを通じて受け付け、金融庁は内容の明確性、社会的意義、革新性、利用者保護、実験の遂行可能性といったチェック項目を基準に支援の可否を判断する仕組みだ。
同庁は支援案件について、個社名や事案概要を調整の上で公表し、実証終了後には成果や法的論点を整理した報告を公開する方針を示している。
また、PIPは法令適用の免除を行う制度ではないとしている。
※1 DvP決済(Delivery versus Payment):有価証券などの受渡と資金決済を同時に行う仕組み。ブロックチェーン活用により、取引の安全性と効率性が高まるとされる。
金融革新の加速に期待、法整備や国際連携が今後の焦点に
金融庁による「決済高度化プロジェクト(PIP)」の設立は、民間による次世代決済技術の開発を後押しするという点で大きな意義を持つ。
最大のメリットは、実証実験における法令解釈の不確実性を軽減できる点にある。ブロックチェーンを活用した決済・清算は既存制度との整合性が難しく、法的リスクが参入障壁となっていた。PIPによって、企業が行政の助言を受けながら実証を進められる体制が整えば、イノベーションが促進される可能性が高い。
一方で、デメリットや懸念も少なくない。
まず、PIPは法令の適用を免除する仕組みではなく、支援の範囲が助言や調整にとどまる。結果として、技術的・制度的な課題が抜本的に解決されるまでには時間を要するだろう。
また、ステーブルコインや暗号資産を活用した実証では、資金洗浄防止(AML)(※2)やサイバーリスクなど副次的な課題が浮上する可能性が高く、支援体制の強化が求められる。PIPの設立が「形式的支援」にとどまる場合、実効性を欠く懸念も拭えない。
PIPの設立は、ブロックチェーンを中心とした決済イノベーションを国家レベルで支援する布石となるだろう。
ブロックチェーンを基盤とした次世代決済の実用化が進む中で、透明性と安全性、利便性と信頼性のバランスを取ることが、今後の金融システム全体の方向性を左右すると考えられる。
※2 資金洗浄防止(AML:Anti-Money Laundering):犯罪やテロ資金調達によって得た資金を合法な資金に見せかける行為を防止するための国際的な取り組みを指す。
金融庁 政策・審議会 イノベーション推進に向けた金融庁の取組み
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