大阪大学が世界最速の自己進化型エッジAIを開発 小型デバイスでリアルタイム学習と予測を実現

2025年10月30日、大阪大学産業科学研究所の松原靖子教授・櫻井保志教授らの研究チームが、小型デバイス内部でリアルタイム学習と予測を同時に行える世界最速・最高精度のエッジAI技術の研究成果を公表した。産業機器や車載IoT、医療用ウェアラブルなどへの応用が期待される。
小型デバイス内で「学びながら予測」するAIを実現
大阪大学の研究チームは、従来のクラウド依存型AIとは異なり、小型デバイス内で自律的に学習・進化を続ける自己進化型エッジAI(※)の開発に成功した。この研究成果は、2025年8月に口頭にて発表されていたものだ。
新技術は、計測データを特徴パターンごとに分解し、多数の軽量モデルを組み合わせてリアルタイムに最適化を行う仕組みを採用している。
これにより、従来の深層学習による予測手法と比べて最大10万倍の高速化と60%の精度向上を達成。クラウド接続を前提としないため、通信遅延やセキュリティリスクを回避しつつ、その場で学習と予測を完結できる点が特徴だ。
これまでのエッジAIは、クラウド上で事前学習された固定モデルをデバイスに実装し、推論のみを行う方式が主流だった。しかしこの方法では、大量のデータ転送や再学習が必要で、リアルタイム性や省電力性に欠けるという課題があった。
大阪大学の新手法はその制約を抜本的に打破し、自己学習・環境適応・進化を自ら繰り返し、リアルタイムにモデル学習・将来予測を行う新技術だ。
松原教授は「製造・医療・ヘルスケア等、様々な分野の産業発展に貢献すべく、実用化を進めてまいります」とコメントしている。
現在、10社以上の国内企業と共同研究を進めており、実用化や事業化への道筋も具体化しているという。
※エッジAI:インターネット接続やクラウドを介さず、デバイス自体にAI処理を組み込み、現場でデータ分析や意思決定を行う技術。
製造・医療・車載分野で実用化へ 国産エッジAIが産業構造を変える
この技術の社会実装が進めば、多様な領域で大きな変化をもたらすと見られる。
たとえば、組み込み機器が自律的に学習して故障予兆を検知したり、車載IoTが走行中の環境変化を即座に解析して安全制御を行うことが可能になるだろう。また、医療・ヘルスケア分野では、ウェアラブルデバイスが利用者の生体データを学習し、在宅診断や疾病予防に活用されることにも期待できる。
一方で、リアルタイム学習AIの導入には、デバイス側の演算負荷増大や電力効率の最適化など技術的な課題も残る。特に、軽量な組み込みチップ上で学習と推論を同時に行う際には、熱設計や消費電力の制御が課題となるだろう。
また、AIが自律的に進化する特性上、学習の方向性や精度をどのように保証するかといった「制御と安全性」の問題も残る。
だが、国産技術による自己進化型AIの確立は、海外クラウドへの依存を減らし、国内産業のデジタル自立を後押しする可能性が高い。
今後、この技術が実用化段階に進めば、日本の産業構造に長期的な影響を与えるだろう。
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