TDKと北大、アナログ回路で小脳を模したAIチップを共同開発 エッジAIの自律学習を加速

2025年10月2日、TDK株式会社は北海道大学と共同で、小脳の構造を模倣したAIチップのプロトタイプを開発したと発表した。
低消費電力かつリアルタイム学習が可能なため、エッジデバイスの自律処理に革新をもたらす技術として注目できる。
TDKと北大、小脳模倣AIチップを開発
TDKと北海道大学は、アナログ電子回路を用いて小脳の働きを再現するリザバーAIチップのプロトタイプを共同開発した。
リザバーコンピューティングとは、入力データを「リザバー層」と呼ばれる動的システムに通し、その内部状態を解析することで時系列データを効率的に処理するAI手法だ。
複雑な中間計算を必要とせず、低電力で高速学習を行うことで、電力効率と応答速度の両立が可能になる。
技術デモとして、10月14日から開催されるCEATEC 2025では、同チップを搭載したデモ機「絶対に勝てないじゃんけん」を出展する。
装着型デバイスが指の動きを加速度センサーで検知し、アナログリザバーAIチップがその動きをリアルタイムで解析。ユーザーが手を出す前に勝つ手を瞬時に判断する。
個人ごとの癖や動作パターンを逐次学習することで、クラウド接続を必要とせずに人間の動きを先読みすることができるといい、リアルタイムでの高速学習を実演する。
TDKは2024年に大脳を模倣したニューロモルフィックデバイスを発表しており、今回の小脳模倣AIチップはその系譜に位置づけられる。
前者が複雑な演算を担うのに対し、後者は時系列変化への即応に特化しており、ロボット制御やヒューマンインタフェースなど「瞬時の判断」が求められる用途への応用が期待される。
低電力AIの新潮流 エッジ自律学習がもたらす可能性と課題
今回の開発は、AI処理のクラウド依存を減らす方向性を示した点で大きな意義を持つ。
エッジ上でリアルタイム学習が可能になれば、ロボットやウェアラブル機器が環境変化に即応し、人間の動作を予測するインタラクティブなAIが実現するだろう。
さらに、演算コストを抑えつつ電力効率を高められるため、生成AIの電力問題にも一石を投じる可能性がある。
一方で、リザバーコンピューティングが時系列情報処理に特化している点は、制約にもなりそうだ。大規模モデルのように多様なタスクを横断的に扱うことは難しく、応用領域は限定的になると考えられる。また、アナログ回路のばらつきやノイズの影響を受けやすいため、安定した量産化には技術的課題が残る懸念もある。
それでも、低消費電力・リアルタイム処理という特性は、ロボティクス、医療モニタリング、スマートファクトリーなど次世代のエッジAI応用において強力な武器となり得る。リザバーAIは、学習よりも“適応”を得意とするAIとして、現在のAIチップやAIモデルを補完するポテンシャルを持つと言える。