AIが育てる「氷見トラフグ」 山あいの陸上養殖から新ブランド誕生か

2025年8月28日、富山県氷見市のAIを活用したトラフグの陸上養殖について、富山新聞などが報じた。県内初の試みであり、新たな地域ブランド創出を目指す。
富山・氷見でAI駆使のトラフグ陸上養殖が始動
社団J-SCOREは2025年7月9日、富山県氷見市に氷見スマートアクアテック株式会社を設立し、トラフグの陸上養殖事業(※)を正式に始動した。
養殖施設には陸上プラントが導入され、8月27日には稚魚を水槽に入れて飼育を開始。県外の研究機関と連携し、AIを駆使した養殖環境を構築している。
氷見市では「ひみ寒ぶり」や「氷見牛」といった強力な地域ブランドをすでに確立してきたが、今回のプロジェクトはそれに続く「氷見とらふぐ」の確立を狙う。
トラフグは「ふぐの王様」と呼ばれる高級魚であり、繊細な生育管理が求められる。少しの水質変化でも成長に影響し、場合によっては死に至ることもあるため、従来は養殖が難しい魚種とされてきた。
今回の陸上養殖施設では、水槽上部のカメラが24時間稚魚の様子を監視し、水流や温度のデータをAIが解析することで、最適な環境を見出す。これにより、質の高いトラフグの生育を目指すという。
現在はおよそ1000匹の稚魚が育成されており、2026年10月ごろには市内の飲食店や旅館でいち早く提供される予定だ。
氷見スマートアクアテックの竹内晃一工場長は「地域の皆さんにまずは愛されて、氷見と言えばトラフグというそういう風になっていけるとうれしい」と期待している。
※陸上養殖事業:海や川ではなく、人工的に設けた水槽や施設で魚介類を育てる方式。病気リスクや外的環境の影響を抑えられる利点がある一方、電力や維持管理コストが高い点が課題とされる。
新ブランド創出で地域経済に波及効果 持続性や競争力が焦点に
AIによる養殖技術の導入は、地域経済に多面的な影響を与えると考えられる。
まず、新たな雇用が創出される可能性がある。山あいの施設で継続的な管理や流通業務が発生することは、若年層の就労機会にもつながるだろう。
また、観光資源としての効果も期待される。高級魚ブランドを背景にした飲食体験は、氷見市を訪れる動機を強め、地域全体の集客力を底上げする要素となり得る。
一方でデメリットも無視できない。
トラフグは環境変化に極めて敏感であるため、AIシステムの誤作動や停電などのトラブルが生産リスクに直結する。
陸上養殖の構造的な課題としては、電力コストの高さも重くのしかかるだろう。特に再生可能エネルギー導入や省エネ設計が不十分であれば、長期的な収益性を損ねる恐れがある。
また、ブランド化の道程には市場競争の厳しさも待ち受けていると予測できる。既存の高級魚ブランドとの差別化が果たせなければ、単なる話題性に留まる危険性がある。
それでも、氷見市が「寒ぶり」「牛」に続き、トラフグを加えることで地域ブランドの多様化を図る意義は大きい。AIが支える持続的な水産業の実証事例として、全国の自治体から注目を集める可能性は高いだろう。
市場競争や気候変動に適応し、持続性をどう確保するかが、この取り組みの成否を決める最大の焦点になりそうだ。
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