三菱電機とInria、フォーマルメソッドでAI信頼性を理論検証

2025年9月18日、三菱電機とフランスの国立研究機関Inriaは、AIの信頼性を数学的に保証する共同研究プロジェクト「FRAIME」を開始すると発表した。安全性が重視される産業分野におけるAI活用の信頼性向上を狙う国際的取り組みである。
フォーマルメソッドと生成AIを融合し信頼性検証技術を開発
三菱電機の欧州研究拠点MERCEとInriaは、2015年からフォーマルメソッド(※)を用いたAI検証技術の共同研究に取り組んできた。
今回開始された「FRAIME」プロジェクトでは、生成AIの出力や自動生成プログラムに対して、数式や論理式で正確性を理論的に検証する技術を開発する。
従来のAI信頼性評価は網羅的テストに依存し、時間とコストの膨大さが課題だったが、フォーマルメソッドを活用することで、理論的に正しさを確認しつつバグや設計ミスを未然に防ぐことが可能になる。
また、機械学習の統計的アプローチとの融合により、柔軟性と信頼性を両立したAIプロセスの構築が期待される。
さらに、ユーザー・AI・フォーマルメソッド間にフィードバックループを設けることで、出力調整の効率化や手戻り削減、運用コストの低減も実現可能になる。
ロボット制御やインフラ管理など、誤作動が許されない産業システムでの応用が想定され、信頼性が求められる領域でのAI適用範囲の拡大につながる。
三菱電機とInriaは、PoC(概念実証)を通じて技術の有効性を検証しつつ、オープンソースでのプロトタイプ公開や学術論文での成果発信、応用分野の拡大を進める計画だ。
研究を通じて若手研究者の育成も重視され、次世代AI技術の社会実装を加速させる狙いがある。
※フォーマルメソッド:システムやプログラムを数式や論理式で厳密に記述し、論理的に正しさを検証する数学的手法。網羅的テストに依存せず、安全性や正当性を高精度で保証できる特徴がある。
信頼性強化で広がる応用範囲、一方でコスト負担や普及速度に課題か
今回の共同研究は、AIの社会実装における大きな転機になり得る。
フォーマルメソッドを活用することで、生成AIの出力を理論的に検証できる点は、従来の試行錯誤的アプローチを大きく前進させるだろう。
特に、インフラや医療など高い安全性が要求される分野において、導入を後押しする効果が期待される。
また、ユーザーがAIをより安心して利用できるようになれば、社会全体のAI受容性も高まると考えられる。信頼性が確保されれば、公共サービスや行政分野など、これまで導入に慎重だった領域にも広がる可能性がある。
一方で、実装に伴うコストやリードタイムは課題となりそうだ。
数理モデルの設計や継続的な検証体制を維持するには高い専門性が必要であるため、中小企業やスタートアップにとっては負担が重くなる恐れがある。普及のスピードをどう担保するかが重要な焦点となるだろう。
フォーマルメソッドの自動化やツールの標準化が進めば、将来的に導入障壁は下がると考えられる。
今回の研究成果が基盤技術として広く共有されれば、AIの信頼性は「付加価値」から「必須要件」へと変化し、社会のAI活用の姿勢そのものを塗り替える契機になり得る。