ディープシーク、AI学習費用29万ドルと公表 米国製モデルを大幅に下回る水準

2025年9月17日、中国の新興AI企業ディープシークが英科学誌Natureに査読論文を発表し、大規模言語モデル「R1」の学習費用が29万4000ドルだったと明らかにした。
米国製モデルの学習コストを大きく下回り、AI開発競争の構図に影響を及ぼす可能性がある。
ディープシーク、学習費用を具体的に初公開
中国の人工知能企業ディープシークは、17日付で科学誌Natureに掲載された論文で、自社の大規模言語モデル「R1」の学習費用を初めて明らかにした。
その額は29万4000ドルにとどまり、米国の先行モデルに比べて大幅に低コストであることが浮き彫りとなった。
今回の論文では、NVIDIA製の半導体「H800(※)」512個が学習に使用されたことも示された。
これまで1月に発表された論文では具体的な使用機材やコストは伏せられており、詳細な数値が示されたのは今回が初めてである。
創業者の梁文鋒氏が共同執筆者として名を連ねた点も注目された。
米OpenAIのサム・アルトマンCEOは2023年に基盤モデルの学習費用について、1億ドルより「はるかに多い」と発言しており、今回の数字との対比が際立つ。
ディープシークの発表は、中国企業が限られた予算でも成果を出し得るという印象を与える内容となった。
ただし米政府当局者は、同社が輸出規制後に大量の「H100」を入手して利用しているとの見方を示しており、コストの算定方法や資材調達経路について疑念も残っている。
今回の補足説明では、A100を保有し開発初期に用いたことも初めて認められた。
※H800:NVIDIAが中国向けに開発した高性能GPU(画像処理装置)。米国政府が2022年に「H100」「A100」の対中輸出を規制した後に投入された代替製品。
低コスト戦略が示す中国AIの強みとリスク
ディープシークの学習費用の公表は、AI産業におけるコスト競争の激化を象徴している。
低コストで高性能なモデルを構築できれば、資本力に乏しい新興企業や新興国の研究機関にも開発の門戸が開かれる可能性がある。
一方で、コスト削減の裏側に不透明な資材調達や規制回避が存在する場合、信頼性や国際的な規範遵守が問われることになる。
また、米中間の半導体供給を巡る摩擦が強まる中で、同社の技術公開は政治的な緊張をさらに高めかねない。
特に米国側が懸念するのは、輸出規制の対象外製品を活用しながら、実際には規制強化後の製品も確保しているのではないかという疑念であると考えられる。
こうした不信感が拡大すれば、AI研究の国際協力は一層困難になるだろう。
一方で、今回の公表が世界の研究者に与える影響も大きい。
学習コストを従来の数十分の一に抑えられる可能性が示されたことで、効率的な開発手法や計算資源の最適化が新たな研究テーマとして注目されると考えられる。
今後は各国のAI企業がコスト削減と透明性確保を両立できるかが、競争の行方を左右するといえる。