掛川市、市立小1〜3年の通知表廃止へ AIカルテと面談で学習評価

2025年9月9日、静岡県掛川市教育委員会は、2026年度から市立小学校1~3年生の通知表を廃止する方針を明らかにした。児童の学習状況は三者面談やAI分析による「AIカルテ」を通じて保護者に伝える新制度を検討している。
通知表を廃止しAIカルテと面談で学習評価へ
掛川市教委は、2026年度より全市立小学校の1〜3年生の通知表を全廃する方向で調整を進めている。県内の市町としては初の試みである。
市議会8月定例会にて、佐藤嘉晃教育長が創世会の山田浩司議員への答弁で方針を説明。
児童の学習成果や生活態度の評価については、教員・児童・保護者の三者面談で直接伝える形式に移行する予定だ。
さらに補足資料として、人工知能(AI)が教科ごとの得意・不得意を分析しグラフなどで可視化する「AIカルテ」の導入も検討している。
従来の通知表は、「大変よい」「よい」「努力したい」の3段階評価と、3~5行の教員コメントで構成されていた。しかし評価の根拠が不透明であることや、限られた記述欄では児童の実態が十分に伝わらないといった課題があった。
こうした背景から、より多角的で対話的な評価方法への転換が図られる。
佐藤教育長は「児童に教科への苦手意識ではなく自信を持たせ、頑張っている姿勢など良いところを本人や保護者に伝えたい」と述べているという。
今後は22日の校長会と29日の市教委定例会を経て正式決定を目指す。
通知表は法令上の義務ではなく、校長裁量で様式が決められる。学校単位での廃止例はあるが、自治体単位での全廃は岐阜県美濃市などが先行事例としてあるものの、依然として珍しい動きだ。
評価の透明性と意欲向上へ 教員の業務負担軽減にも期待
新制度には複数の利点がある。AIカルテによる客観的な視覚情報は、保護者にとって理解しやすく、子どもの学びを具体的に把握する手段となるだろう。
また、面談形式を通じて子どもの学びに対する姿勢や努力も含めて評価できるようになり、自信の醸成やモチベーションの向上が期待される。
さらに通知表作成に割かれていた教員の業務時間を削減し、働き方改革にも資する施策としても注目される。
一方で、AI分析結果の過信には注意が必要だ。データに表れにくい子どもの内面や突発的な変化は、数値化が困難である可能性が高い。
また、面談形式が評価の中心となる以上、教員の面談スキルに差がある場合、評価の一貫性が失われる懸念も拭えない。
さらに、保護者側にデジタルツールへの理解やアクセス環境が整っていない場合、情報格差が生じる恐れがある。評価の「見える化」がかえって競争や比較を助長するリスクにも留意すべきだろう。