クリスティーズ、NFT部門を閉鎖 ビープル落札から4年、戦略見直しへ

2025年9月15日、米オークション大手クリスティーズがNFTを含むデジタルアート部門を閉鎖したと、米メディアNow Mediaが報じた。
部門責任者のニコール・セールス・ジャイルズも本件を認め、同社は今後も美術全体の文脈でデジタル作品の販売を継続すると説明している。
NFT市場の象徴だった部門が消滅
クリスティーズはデジタルアート部門の閉鎖を正式に決定し、これを率いてきたニコール・セールス・ジャイルズが退任した。
同社の広報担当者は「デジタルアートの販売を見直す戦略的決定を下しました。当社は今後も、20・21世紀美術という広義の文脈のなかで、デジタルアートの販売を続けていく予定です」とコメントしている。
同部門はNFT(※)をアート市場に導入した象徴的存在だった。
2021年にはビープル作の「エブリデイズ:最初の5000日」が6,930万ドル(当時約75億円)で落札され、デジタルアート史上最高額を記録した。
この出来事はNFTブームの幕開けとなり、世界的な熱狂を引き起こしたとされる。
しかし、熱狂は長続きしなかった。
翌2022年にはクリスティーズのNFT売上が590万ドルにまで減少し、前年から96%の大幅減となった。さらに2024年の調査では、NFTプロジェクトの96%が消滅し、投資家の平均損失は44.5%に達したと報告されている。
競合のサザビーズも、同様にデジタルアート部門の人員を削減し、現在残っているのはわずか数名にとどまるという。
※NFT(Non-Fungible Token):ブロックチェーン上で唯一性を保証するデジタル資産のこと。複製可能なデジタルデータに希少性を付与する仕組みで、アートやゲームなどに活用されている。
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アート市場での位置づけ再編、デジタル作品の行方は
今回の閉鎖はNFT市場の低迷を象徴する動きだが、同時にデジタルアートを美術史の一部として位置づけ直す契機とも考えられる。
NFTをめぐる過度な人気は冷え込んだものの、生成AIやブロックチェーンを活用した表現手法は進化を続けている。
クリスティーズが「20・21世紀美術」の中で販売を継続すると強調したのは、デジタルアートを短命な流行として切り捨てるのではなく、長期的な市場基盤を模索する姿勢の表れとも言える。
NFTの価格変動は激しいが、ブロックチェーンによる真正性の証明や取引履歴の透明性は美術品市場における重要な技術基盤となりうる。今後は、投資対象という側面から、文化資産としての保存・流通の仕組みへと焦点が移る可能性が高い。
一方で、NFTブームに参入した多くの投資家が大きな損失を被った事実は無視できない。
投機的要素が強調されたことで市場の信頼が失われ、デジタルアート全体の評価に影響を及ぼす可能性もある。こうした不信を払拭できるかどうかが、今後の市場形成の成否を左右するだろう。
クリスティーズの決定は、アート市場におけるデジタル作品の立ち位置を再編する動きとなり得る。
短期的な収益よりも、技術と文化を結びつける長期的な視点が求められる局面に差し掛かっているのだと考えられる。
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