膨大なCT画像をAIが10秒で解析する新システム 大阪急性期センターが世界初の臨床導入へ

2025年9月8日、大阪府立病院機構大阪急性期・総合医療センター(大阪市住吉区)は、外傷患者のCT画像を人工知能(AI)が解析し、負傷部位を10秒以内に特定するシステム「ERATS」の効果検証を始めた。
センターによると、全身画像を検索するAIの医療現場導入は世界初とされる。
AIが全身CTから負傷部位を瞬時に特定
大阪急性期・総合医療センターは8日、外傷患者の診断補助を目的に開発したAIシステム「ERATS(イーラツ)」の臨床検証を開始した。
このシステムは、患者1人あたり数百〜千枚以上に及ぶ全身CT画像を対象に、出血や骨折の可能性がある部位を10秒以内に判別できるものだ。
従来、医師が目視で確認する場合は平均5分を要していたため、所要時間は約30分の1に短縮される。
センターによれば、重篤な外傷患者の死因の多くは出血であり、迅速な止血が生存率を左右するという。
CT検査による出血部位の特定は不可欠だが、これまでは膨大なCT画像から負傷部位を発見するプロセスが医師の負担になっていた。
こうした課題を解決するため、急性期センターは2019年にAiシステム、ERATSの開発に着手した。
13の共同研究施設と協力し、約1万人分、計120万枚のCT画像を収集し、専門医がそれぞれアノテーション(※)を施すことで、AIシステムに学習させる手法を取ったという。
開発を主導した岡田直己医師は「ERATSは人手不足の医療機関でも医師の負荷軽減につながる。助けられなかった患者を救命する努力を続けたい」と語った。
※アノテーション:画像やデータに意味づけや説明情報を付与する作業。AIの学習精度を高めるために行われる。
救命率向上と負荷軽減の期待 普及には課題も
ERATSの導入によって、負傷部位の把握が迅速かつ正確になり、治療の初動を素早く判断できるようになることが期待される。
特に救急初療室の現場では、時間短縮が救命率の改善に直結する。
診断補助の自動化は、限られた人員で多数の患者に対応せざるを得ない地方病院や過疎地医療にとっても有効と考えられる。
一方で、実用化にはいくつかの課題も残ると予想できる。
AIが示した結果を医師が確認するプロセスは依然必要であり、誤検出や見落としのリスク管理は引き続き必要になると思われる。
また、医療現場ごとのCT機器や患者データの違いが精度に影響する可能性もある。
今後は多施設での実証を重ね、国際的な標準化に向けた取り組みが課題となるだろう。
それでも、世界で初めて全身CT画像検索AIを臨床に導入した今回の事例は、医療AI活用の新たな転換点となり得る。
実用化が現実味を帯びれば、救命医療の質を根本から変える技術革新として広く注目されるだろう。