ECB総裁、EUに域外ステーブルコイン規制強化を要請 国際協調不可欠と指摘

2025年9月3日、欧州中央銀行(ECB)のクリスティーヌ・ラガルド総裁は、欧州連合(EU)の立法者に対し、ステーブルコイン発行体に対する規制を域外にも適用すべきだと訴えた。
準備資産の集中リスクを防ぐ狙いであり、国際協調の必要性も強調した。
ラガルド総裁、域外発行体にも厳格規制を要求
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁は9月3日、規制会議の場で、ステーブルコインに関するEUの規制枠組み「MiCAR」の限界を指摘した。
ラガルド氏は、海外発行体に対してもEU域内と同水準の安全策と同等性制度(※)を義務づける必要があると強調した。
EUは既に世界で最も厳格な規制の一つを導入しており、ステーブルコインには準備資産による全額裏付けを求めている。
しかし、現行制度では域外事業者への適用が不十分であるため、取り付けリスクがEU域内に集中する可能性があると懸念を示した。
ラガルド氏は国際協調なくして公平な競争環境は実現しないと述べ、リスクは常に規制の緩いルートへと流れると警告した。
イタリア証券取引委員会(CONSOB)のコルネッリ委員も同席し、ステーブルコインを含む暗号資産は法定通貨ではないことを改めて明示すべきだと指摘した。
ECB発行のユーロのみが唯一の法定通貨であることを、市民に明確に伝える重要性を訴えた。
さらにラガルド氏は、MiCARによりステーブルコイン保有者は世界中で償還できる権利を持つが、危機時には投資家がより安全なEUでの償還を選ぶ可能性が高いと説明した。
その結果、EU域内にある準備資産だけでは需要に対応できず、ファイアセールが発生する恐れがあるとした。
※同等性制度:他国の規制を自国基準と同等とみなし、域内での活動を認める仕組み。EUでは金融サービス分野で広く用いられている。
域外規制拡大の必要性と国際協調の課題
ラガルド総裁の発言は、EUの金融安定を守る上で抜け穴を塞ぐ必要性を浮き彫りにした。
域外発行体が規制を免れたまま取引を拡大すれば、投資家は最も保護が厚いEUを利用することになり、EU内の準備資産に過大な負荷がかかる。
これは域内金融機関の安定性を揺るがす要因となりかねない。
ただし、域外発行体にEU規制を適用することは、他国との摩擦を招く可能性もある。
国際金融市場における調整には時間を要し、規制の差異が投資家行動を複雑化させる懸念も否定できない。
こうした規制強化が実現すれば、域内の投資家保護とシステムリスク抑制を一段と強化できるだろう。
特に、EU域内で取り付けが発生した場合でも、十分な資産裏付けが確保されていれば混乱を未然に防げる可能性が高まる。
その一方で、規制が厳格化すれば海外発行体にとって参入障壁となり、EU市場の競争力低下につながる恐れもある。
さらに、過度な規制がイノベーションを阻害するとの批判が起きることが予測される。
今後は、各国当局との協調を前提に、グローバルな基準作りが不可欠になると考えられる。
ECBと各国規制機関が歩調を合わせられるかが、EUの金融安定と暗号資産市場の健全な発展を左右すると言える。