北海道から関東沖に新たな地震帯 AI解析で従来6倍の地震を検出

2025年7月11日、東北大学と東京大学などの研究グループが、北海道から関東沖にかけて沈み込む太平洋プレート上に新しい地震帯「前弧地震帯」を発見したと発表した。
AIを用いた深層学習で、従来よりもはるかに多くの地震を検出した国内研究である。
AI解析で東日本沖に前弧地震帯を特定
研究チームは海底地震観測網「S-net」の約4年分のデータをAIで解析し、東日本太平洋沖で従来把握していた地震の約6倍にあたる58万件以上の震源情報を得た。
対象は2016年夏から2020年夏までで、陸上も含む594観測点の東西・南北・上下方向の地震波形から震源を特定した。
解析結果から、北海道、青森、岩手、宮城、福島沿岸から関東にかけて、深さ約35~75キロのプレート上部で地震活動が集中していることが明らかになった。
この帯状の活動域は、海溝沿いの火山列と重なる「前弧」地域に位置することから「前弧地震帯」と命名された。
前弧地震帯における震源は、浅いプレート部分、プレート境界、スラブ地殻の3層に分類できる。この層構造の解析により、水がプレートから分離して上昇することが、地下岩盤の摩擦を減らし、スロースリップ(※)が起きて巨大なプレート境界地震の広がりを止める一方で、直下型地震を引き起こす可能性が示された。
AI解析により、沖合での震源の深さ精度が向上し、従来は把握できなかった小規模地震も検出可能になった。
東京大学地震研究所の内田直希教授は、この前弧地震帯が巨大地震と直下型地震の双方に関与する「水みち」であるとし、将来の地震範囲や規模の予測に役立つと指摘する。
研究成果は米科学誌「サイエンス」電子版に掲載されており、AIの地震学への応用が日本列島周辺の地震理解に新たな知見をもたらした点が注目される。
※スロースリップ:地震計ではほとんど揺れを感じない速度でプレートがずれる現象。巨大地震の発生を抑える作用を持つ場合がある。
前弧地震帯の発見が示す地震予測の新戦略
前弧地震帯の解析は、巨大地震の発生抑制や直下型地震のリスク評価に新たな視点を提供する。
プレートから分離した水がスロースリップを引き起こす領域と、浅い断層に入り直下型地震を誘発しやすい領域が明確になったことで、地震防災計画の精度向上が期待できる。
企業や自治体にとっては、地震発生の高リスク地域をより正確に把握できることが、防災対策や都市計画の意思決定に直結する利点となる。
一方で、AI解析で小規模地震まで把握できるようになったことで、過剰警戒や誤解による混乱が生じるリスクも否定できない。
将来的には、AIを用いた地震予測モデルと現場観測データを統合することで、地域ごとの詳細な地震発生確率マップを作成できる可能性がある。これにより、投資判断やインフラ整備のリスク評価が科学的根拠に基づき行いやすくなるだろう。
国内外の研究機関や災害対策部門がこの知見を活用すれば、東日本太平洋沖における地震活動の理解がさらに進み、災害被害の軽減につながると考えられる。
東北大学 プレスリリース:https://www.tohoku.ac.jp/japanese/2025/07/press20250711-01-plate.html?utm_source=chatgpt.com