NECと米ClimateAi、AIで農業の気候変動対策効果を推定 アフリカでカカオ・コメ栽培を分析

2025年8月19日、NECは米国スタートアップClimateAiと共同で、アフリカにおけるカカオとコメの栽培に対する気候変動適応策の効果をAIで推定するコンセプトモデルを構築したと発表した。
AIで農業の気候変動適応策の投資対効果を分析可能に
今回発表された取り組みは、農業分野における気候変動対策の経済的効果を可視化することを狙いとする。
これまで温室効果ガス削減などの緩和策は進んできたが、被害を軽減するための適応策の導入は投資効果が不明瞭なため遅れてきた。
特に農業では、気温や水、土壌条件など多様な要素が複雑に絡み合い、かんがい設備の導入や品種改良といった施策の経済的効果を事前に推定することが難しかった。
今回の発表は、この課題をAIで解決しようとする試みだ。
両社が構築したコンセプトモデルは、農業に影響を与えるさまざまな要素を解析し、適応策の投資対効果を算出する。
対象としたのはアフリカの複数地点におけるカカオとコメの栽培で、「かんがい設備の導入」「気候適応品種への変更」「既存品種の作付時期変更」という3つの施策を比較。
収量の維持・向上や経済的価値の創出にどの程度寄与するかを検証した。
このモデルの実用例としては、農業支援を行う国際機関や開発銀行が、投資対象となる農地の選定や適応策の効果測定に活用できることが想定されている。
適応策の可視化で農業投資とサプライチェーンに波及効果も
今後、このモデルの応用範囲は農業分野にとどまらない可能性がある。
NECは関連事業者との連携を視野に入れ、適応ファイナンスやアグリテック分野での事業展開を計画している。
具体的には、民間企業にとって参入障壁となる収量リスクの把握支援、融資先の事業性評価、農業生産者や管理者への適応策導入サポートが含まれる。
また、種苗・資材事業者や食品加工事業者といったサプライチェーン全体への波及効果も期待される。
メリットとしては、適応策の効果を定量的に評価できることで、農業従事者や投資家の意思決定が容易になる点が大きい。
気候変動の影響で収量が不安定化する地域においても、科学的根拠を持った投資判断が可能となり、持続可能な農業推進に寄与すると考えられる。
一方で、モデルが想定するデータの精度や地域ごとの条件差を十分に反映できるかという課題も残る。
特に途上国では気象データや農地情報の整備が不十分なケースがあり、AIの精度に限界が生じる懸念は否めない。
それでも、農業の気候変動適応が国際的に遅れている現状を踏まえれば、今回の取り組みは有力な突破口となる可能性がある。
農業以外の分野、たとえばインフラや製造業のサプライチェーンにおいても、気候変動適応は不可欠なテーマとなりつつある。
NECとClimateAiの試みは、農業から産業全体に広がる気候リスク対策の新たな方向性を提示したと言える。