スウェーデン首相、生成AIに政策相談 「セカンドオピニオン」発言が波紋

2025年8月3日にスウェーデンのビジネス紙で配信されたインタビュー記事にて、スウェーデンのクリステション首相が、国政運営にあたり生成AIを頻繁に活用している旨を発言し、議論を呼んでいる。
機密情報の扱いや誤情報への依存リスクが指摘され、地元メディアや専門家から懸念の声が上がった。
首相が政策判断でAI活用を公言、国内で賛否
スウェーデンのクリステション首相は、3日に公開されたビジネス紙のインタビューで、ChatGPTなどの生成AIを国政運営の参考として活用していると明かした。
具体的には、「他の人ならどうするか。全く逆のことを考えるべきなのか」といったセカンドオピニオンを得る目的で「かなり頻繁に使っている」と述べた。
さらに、首相の同僚も日常業務でAIを利用しているという。
これに対し、地元有力紙は社説で「テック・オリガルヒ(寡頭政治※)のAI狂信に陥った」と批判。
AIの専門家からは、機密情報がAIの学習データとして利用される可能性や、事実と異なる内容を生成する「ハルシネーション」を誤って信用する危険性が指摘された。
一方、首相報道官は、機密性の高い情報を入力したことはなく「リスクは冒していない」と反論。AIは「あくまで意見交換の一環として利用している」と説明した。
※テック・オリガルヒ(寡頭政治):巨大IT企業やその創業者らが、経済や社会、政治に過大な影響力を持つ状態や、その人物群を指す。民主的プロセスを経ずに意思決定へ影響する点が問題視される。
政治とAIの距離感、世界的な課題になる可能性
今回の件は、政治指導者がAIを意思決定の補助に使うことの是非をめぐる世界的議論を象徴している。
政治指導者が生成AIを活用する際も、意思決定の初期段階で多様な視点を迅速に得られる点は、大きな利点になると思われる。
多言語対応や情報要約といった生成AIの特性は、国際情勢の分析や複雑な政策課題の整理に有効であり、人間特有の思い込みを相対化する契機となり得る。特に、異なる文化や政策モデルを短時間で比較できる点は、外交や経済戦略において有用だと言える。
しかし、リスクは構造的かつ深刻だ。
外部サーバー上で稼働するAIに機密を入力すれば、意図せず情報漏えいが生じる可能性は否定できない。また、生成AIが作り出す「もっともらしい誤情報」が政策判断に紛れ込む危険も大きい。
加えて、AI提供企業が特定の価値観や商業的利害を持つ場合、無意識のうちに政治判断が偏る恐れもある。
今回のスウェーデン首相の事例は、政治とAIの関係をどこまで許容するかという問いを各国に突きつけることになりそうだ。
各国の指導者が同様の手法を採用する場合、透明性確保と情報管理のルール策定は避けて通れない。特に、機密情報の取り扱いとAIの出力検証を制度的に担保する仕組みが求められるはずだ。
政治指導者もAIを活用する現代社会においては、その影響力を抑制する制度的防波堤が整えられるかどうかが、今後の民主主義の持続性を左右する鍵となるかもしれない。