メタ、手の動きでPC操作できるリストバンド開発 障がい者支援用途のほか、将来的にはメタバースやARへの応用も

2025年7月24日、米Meta(メタ)は、手のジェスチャーでコンピュータ操作が可能となる新型リストバンドの開発を進めていると、英科学誌『Nature』にて発表したことを明らかにした。
筋電信号を活用する非侵襲的デバイスで、身体障害を持つユーザーのITアクセス手段として注目だ。
メタ、筋電信号で意図を読み取る新型リストバンドを開発中
Metaの研究チームは現在、手のジェスチャーによってカーソル移動やアプリ起動、さらには空中で文字を書くことでメッセージ送信が可能となるリストバンド型デバイスの開発を進めている。
本デバイスは「表面筋電図(sEMG)(※)」と呼ばれる技術を用いており、筋肉の動きから発生する微弱な電気信号を解析することで、使用者が「何をしようとしているか」を高精度で予測する。
この手法により、動作を完全に実行する前の段階でも意図を読み取ることが可能になる。
同社はこの技術を、特に脊髄損傷などで腕や手の動きに制限のある人々の支援ツールとして位置づけており、カーネギーメロン大学との共同研究を通じて実証実験を行っている。
機械工学・神経科学のダグラス・ウェバー教授は、「完全に手が麻痺していても、筋肉にはわずかな電気活動が残っており、それをデバイスが検出して操作に活用できる」と説明している。
※表面筋電図(sEMG):皮膚表面に装着した電極で筋肉から発せられる電気信号を検出する技術。神経や筋肉の活動を非侵襲的に計測可能とする手法で、医療やリハビリ分野でも用いられている。
非侵襲デバイスとして注目 メタバースへの応用も
ほかに重度の麻痺を持つ人々のために開発が進められている先進技術のひとつが、イーロン・マスク氏率いるNeuralinkの「脳インプラント」である。
これは、頭蓋骨を開き、脳内に微細な電極を埋め込むことで、脳波を直接読み取り、コンピュータなどの外部デバイスを操作できるようにするというアプローチだ。
高精度な意思伝達手段として注目されているが、侵襲性の高さや手術リスク、長期運用の安全性などが課題とされている。
これに対し、Metaのリストバンドは、皮膚表面から筋肉の微細な電気信号を読み取る「表面筋電図(sEMG)」を用いた非侵襲型のデバイスであり、装着するだけで即座に使用可能という手軽さが大きな特徴である。
手術を必要としないことから、広範なユーザーに対する導入が現実的であり、特に軽度〜中等度の運動障害を抱える人々への支援技術として有望視されている。
さらに、sEMGは脳波計測に使われるEEG(脳波)と比べて信号強度が高く、ノイズの影響を受けにくい点も利点となる。
とはいえ、個々人によって筋電信号の出方に差があるため、精度の高い操作には個別の最適化が必要となる。
また、装着時の快適性や、長期使用における信号の安定性も今後の改善点として挙げられる。
将来的には、身体障害者支援を超えて、ARやメタバース空間における直感的インターフェースとしての活用も視野に入るだろう。
Metaのアプローチは、身体機能に制約のある人だけでなく、すべてのユーザーに新たな操作体験を提供する可能性を秘めている。