AIで子宮頸がんの即時判定が可能に 浜松医科大が開発、高額装置不要で診断を効率化

2025年6月19日、浜松医科大学の研究グループが、スマートフォンと顕微鏡を用いて子宮頸がんの有無をAIで即時判定できるモデル「サイトロン」を開発したことを発表した。
従来必要だった高額機器が不要になり、地域医療への導入が進む可能性がある。
スマホ顕微鏡でがん細胞を識別 診断精度95%超のAIモデル
浜松医科大学大学院生の栗田佑希氏と再生・感染病理学講座の目黒史織講師を中心とした研究チームは、細胞診(※)をAIで支援する画像認識モデル「サイトロン」を開発した。
本モデルの特徴は、iPhoneのカメラを接続した簡易顕微鏡で撮影した画像を用いて、0.5秒以内に子宮頸がんの異常判定を行える点にある。
学習データに基づいて染色された子宮頸部細胞の画像を即時解析し、精度95.8%という高い水準で異常細胞の有無を判断できる。これは、人間による診断精度を上回るとされている。
従来のAI支援診断では、ガラス標本全体を高解像度でスキャンし、大容量のデータをクラウドや専用端末で解析する必要があった。このため、3000万円以上の専用スキャナー導入や長時間の処理を要し、医療機関の規模によっては導入が困難だった。
サイトロンはこのプロセスを簡略化し、安価かつ高速に診断支援を実現する点で革新的である。
本成果は米国・カナダ病理学会誌「モダンパソロジー」に掲載された。
今後は外部機関による精度検証を経て、実用化に向けた取り組みが進められる見通しだ。
※細胞診:子宮頸部などから採取した細胞を染色し、顕微鏡で観察して異常の有無や程度を評価する検査手法。がん検診や早期発見に用いられる。
地域医療に新たな選択肢 低負担・高精度診断の可能性と課題
サイトロンのような低コスト・高精度な診断支援技術は、今後の医療DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するうえで中核的な存在となる可能性がある。特に、がん検診の受診率が低迷する地域においては、検査の迅速化と簡便化によって早期発見率の向上に寄与すると見られる。
また、細胞検査士の負担軽減という観点でも意義は大きい。
現在は1枚の標本につき5000〜1万個の細胞を手作業で観察する必要があり、熟練技術を要する作業として現場の負担となっている。AIがこの一部を担うことで、より迅速かつ客観的な診断が可能になるだろう。
一方で、AIの診断結果に対する医師の最終判断との整合性や、アルゴリズムの汎用性、責任分担など、実用化に向けた検討課題も残る。特に、判定根拠の説明性や、AIの学習データの偏りによる誤判定リスクには注意が必要そうだ。
今後、AIが補助的役割を果たす形での「リアルタイム細胞診」の実現が進めば、がん診断における時間と精度のジレンマを打破する突破口となるだろう。