熟練エンジニア、AIエディタ活用で逆に生産性が低下 提案のチェックに時間を要するケースも

2025年7月10日、米非営利団体METRが実施した調査により、熟練したソフトウエア開発者がAIツールを使った際、かえって作業時間が増加する傾向があることが明らかになった。
従来の「AIは生産性を高める」という認識と対立する結果で、業界内外に衝撃を与えている。
慣れたコード環境ではAIが作業効率をむしろ低下
今回の調査を行ったのは、AI研究の非営利団体「METR」である。
対象となったのは、高度なスキルを持つ熟練開発者たち。彼らは自身が精通しているオープンソースプロジェクトのタスクに取り組む際、人気のAI支援ツール「Cursor(※)」を使用した。
作業前、参加者たちはAIの利用により平均24%の作業時間短縮が見込めると予測し、作業後の自己評価でも20%の短縮を感じていた。
しかし実際には、AI導入によって作業時間は平均19%増加していたという。
遅延の主な理由は、AIが提案するコードを検証・修正する工程に予想以上の時間を要したことだ。
報告書の執筆者であるジョエル・ベッカー氏は、「AIは作業について提案をいくつかしてきた。提案は方向性としては正しいことが多かったが、必ずしも必要とされる内容でなかった」と述べ、AIの提案過多の問題を指摘した。
過去の研究では、AIによってプログラマーの作業速度が最大56%向上した例もあるが、今回の結果はその一様な楽観論に一石を投じるものとなった。
※Cursor(カーソル):AI支援型のコードエディタ。コード補完やエラー検出、タスク提案などを通じて開発効率を高める機能を備える。近年、GitHub Copilotと並び注目されている。
AI導入の最適条件とは
今回の調査結果は、AIツールがすべての現場において効率化をもたらすわけではないことを示している。
特に熟練開発者が自分の慣れたコードベースで作業する場合、AIの提案の確認に時間を割くことでかえって効率が落ちる可能性がある。
一方で、今回の対象は高スキルかつ限定された環境下でのケースであり、必ずしも一般化できるものではない。
METRも、初級エンジニアや未経験のコード領域では、AIの支援が有効に働く可能性を否定していない。
また、調査参加者の多くは、作業効率にかかわらずAIツールの利用を継続しているという。
その理由としては、「手作業でコードを書くより、AIの提案を編集するほうが心理的に楽で創造性も刺激される」といった意見があがっている。
AIは単なる生産性向上ツールではなく、開発体験を変える存在になりつつあるといえる。
今後は、AIツールの有効性を「速度」だけで測るのではなく、開発者の創造性や疲労軽減といった多面的な視点で評価することが求められるだろう。
また、コードベースの種類や開発者のスキルレベルによって、AIの支援が効果を発揮する条件を精密に見極める必要がある。