米ゲーム業界がAI利用で労使合意 声優らの同意と開示を義務に

2025年7月9日、米俳優組合SAG-AFTRAは、ゲーム業界に従事する声優やモーションキャプチャー俳優と主要ゲーム会社との間で、AI(人工知能)に関する労働保護で新たな契約を締結したと発表した。約1年間におよんだストライキは、今回の合意によって正式に終了する見通しである。
AIレプリカ使用に同意と開示義務 ゲーム各社と新契約
SAG-AFTRA(全米映画テレビラジオ芸術家組合)は、アクティビジョン・プロダクションズ、ディズニー・キャラクター・ボイス、WBゲームズ、テイクツー・プロダクションズなどの大手ゲーム会社と、AI利用に関する包括的な労働協約を締結した。
この契約には、AIによるデジタルレプリカ(※)の作成・使用に関して、俳優本人の明確な同意と事前の開示を義務づける条項が盛り込まれている。さらに、ストライキ期間中には俳優が新規作品への出演同意を拒否できることや、今後3年間で累計15%以上の賃上げが実施されることも明文化された。
「ファイナルファンタジー」や「コールオブデューティ」など人気タイトルへの出演経験を持ち、交渉委員会の一員である声優のサラ・エルマレ氏は、「ゲーム業界におけるAIの倫理的な利用方法に関する基準を確保することが極めて重要だった」と語った。
また、SAG-AFTRAのフラン・ドレッシャー会長は声明で、「今回の合意はAIを巡る保護という点で重要な進展になる」と評価した。
※デジタルレプリカ:俳優や声優の外見・声・動作などをAIで再現した仮想キャラクター。本人の演技データを基に生成されるため、肖像権や著作権との関係が問題視されている。
ゲーム業界で進むAI導入 労使合意が示す今後の課題
AIの進化と普及が進む中、ゲーム業界でも声優や俳優の演技データをもとにした自動生成技術の導入が進展している。こうした技術は制作コストの削減や納期短縮に寄与する一方で、本人の許諾なくAIが演技を再現する「無断使用」への懸念が強まっていた。
今回の契約により、同意なしでのAI利用に一定の歯止めがかかったことは、業界における透明性確保と人権保護に向けた一歩と考えられる。ただし、AIによる演技再現が技術的に高度化する中では、契約内容の実効性をどう担保するかが今後の焦点となるだろう。
また、契約が締結したとはいえ、実際に俳優個人が権利を主張し続ける仕組みが十分に機能するかは不透明な側面もありそうだ。
ゲーム業界全体としても、AI活用による効率性と、俳優の創造的貢献への正当な対価という両立に向け、倫理的・制度的な対応が今後より一層求められるだろう。