JAXAとESAが気候変動対策で戦略提携 観測データと解析ツールを共同提供へ

2025年7月8日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関(ESA)が気候変動対応に向けた戦略パートナーシップ協定を締結したことが発表された。
地球観測データや解析ツールの連携提供を目的とし、今後の国際的な環境政策にも影響を与える可能性がある。
JAXAとESA、気候変動対策で衛星データを共同活用
日本のJAXAと欧州のESAが、気候変動問題に共同で取り組むための戦略的パートナーシップ協定を締結した。署名式は2025年6月25日、オーストリアで開催された地球観測関連の国際イベント「Living Planet Symposium 2025」で行われ、7月8日に正式に発表された。
両機関はこれまでも、衛星データの受信や解析の分野で連携しており、2024年には雲やエアロゾル(※)の分布を観測する「EarthCARE(アースケア)」衛星を共同で開発・打ち上げている。
今回の協定は、そうした既存の協力体制をさらに強化し、世界各国の政策立案者が科学的根拠に基づいた意思決定を行えるよう支援することを目的としている。
協定により、JAXA・ESA双方の地球観測データや解析ツールの相互利用が促進される。特に温室効果ガスの排出量推計、海面上昇や森林減少といった地球規模の現象に対する定量的な可視化技術は、各国の気候政策や規制に直結する情報源となる。
JAXA第一宇宙技術部門 地球観測統括・衛星利用運用センター長の前島裕則氏は「これまでJAXAとESAは長年協力してきた。これからも気候変動というグローバルな課題に、JAXAとESAで連携を強化して取り組みたい」と述べた。
※エアロゾル:大気中に浮遊する微小な液体・固体粒子の総称。気候に影響を与える要因の一つであり、太陽光の散乱や雲の形成などに関与する。
国際協調で加速する気候対策 技術提供の先に見える課題も
今回の協定は、JAXAとESAがこれまで蓄積してきた協力関係を制度的に強化するものと位置づけられる。特に、共同開発した「EarthCARE」のようなミッション成果を最大化し、双方の衛星技術や観測データの相互運用性を高める取り組みが今後本格化すると見られる。
観測機器の較正や検証作業、解析手法の標準化など、異なる開発文化や技術基盤を持つ機関同士の連携には一定の技術的ハードルが存在する。その一方で、研究成果の精度向上や重複開発の回避、開発コストの抑制といった利点も期待される。
また、国際的な気候観測ネットワークの一翼を担うという意味で、JAXAとESAの協調は科学的信頼性の強化にも寄与する。気候変動という地球規模の課題に対して、異なる地域・観測手法を持つ宇宙機関が連携することは、長期的に見て観測精度の向上や監視体制の強靭化につながる。
将来的には他の宇宙機関や研究機関との連携拡大も視野に入る可能性があり、技術基盤の整備と運用体制の確立が今後の焦点となるだろう。