ハイテク業界団体、EUにAI法の導入停止「技術革新が停滞するリスク」と警告

2025年6月26日、大手テック企業が加盟する業界団体「コンピューター・情報産業協会(CCIA)」の欧州支部が、欧州連合(EU)に対し、AIに関する包括的規制「AI法」の導入停止を求めた。AI活用の進展を妨げる懸念が背景にある。
AI法の段階的適用に業界が反発、「停止が必要」と主張
CCIA欧州支部は6月26日、EUが進めるAI法の導入に対し正式な懸念を表明した。
加盟企業にはアルファベット、アップル、メタ・プラットフォームズといった世界的テック企業が名を連ねている。
同団体はAI法が技術革新の障害になり得るとし、導入プロセスの一時停止を強く求める声明を出した。
EUのAI法は2024年6月に施行されており、2025年8月には汎用目的AI(GPAI)(※)を対象とした重要条項が適用される予定である。だが、このGPAI規則の一部が未発表のままの状況だ。
CCIA欧州支部のダニエル・フリードレンダー上級副会長は、「AI法の重要な部分が施行の数週間前になっても公表されていない状況下、AI法を適切に運用していくには停止が必要だ。」と指摘した。「さもなければ、技術革新を全面的に停滞させるリスクがある」との見解も示している。
また、スウェーデンのクリステション首相をはじめとする一部のEU首脳からも、導入の見直しを求める声が出ており、政治レベルでも疑念が広がっている。
※汎用目的AI(GPAI):特定の用途に限らず、幅広いタスクに対応できる大規模AIモデル。ChatGPTやGeminiなども含まれる。AI法では特にリスク管理や透明性が重視されている。
不透明な規制に混乱 普及の足かせになる可能性も
AI法が本格的に適用されれば、GPAIを開発・提供する企業はそのリスク評価、透明性の確保、訓練データの公開など、厳格な義務を負うことになる。
これは、生成AIの進展にとって重要な分岐点となるが、その運用実態が不透明なままでは、かえって技術導入を躊躇させる要因にもなるだろう。
アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)が欧州の企業を対象に行った調査によると、回答企業の3分の2以上が「AI法の下で自社に求められる義務が不明確である」と回答している。これは、現場レベルでの混乱と、導入コストや法的リスクへの不安が広がっていることを示しているといえる。
EUはAI倫理や市民の権利保護を重視しており、AI法はその理念に基づいた世界初の包括的枠組みとされている。
だが、過剰な規制が企業活動を萎縮させれば、今後の欧州域内でのAI技術の実装が他地域に比べて遅れる可能性も否めないだろう。