AIに求められるのは論理よりも「共感力」か 感情認識技術が新たな競争軸に

現地時間2025年6月24日、米TechCrunchが報じたところによれば、AI業界では論理性よりも共感性を重視する動きが加速しているという。
感情認識に特化したオープンソースツールの登場や心理学的ベンチマークの導入により、次世代AIの評価軸が大きく変わりつつある。
感情を「読む」AI開発が本格化
AIにおける新たな進歩の兆しとして、「感情知能(※)」を重視する動きが注目されている。
これまでAIの評価は主に論理的推論や情報検索能力といった論理的な指標に依拠してきたが、現在はユーザーの好みや共感力といった感情的な性能が新たな競争軸となりつつある。
その一例として、欧州のオープンソース開発団体LAIONは、音声や顔画像から感情を推定することに特化したツール群「EmoNet」をリリースした。
同団体の創設者クリストフ・シューマン氏は、「この技術は大手ラボではすでに利用可能です」と述べている。
また、EQ(感情指数)を評価する新たなベンチマーク「EQ-Bench」が出現したことも、感情知能的側面がより重要な評価対象になっている現れと言える。
ベンチマーク開発者のサム・パエク氏によれば、OpenAIのモデルはここ半年で感情理解力を飛躍的に向上させているほか、Googleの「Gemini 2.5 Pro」では共感性を意識したポストトレーニングの痕跡が見られるという。
大手企業がAIの感情知能を重視していることの表れだ。
こうした「感情面・共感面の性能」競争により、AIの感情知能スコアは向上している。
5月にスイス・ベルン大学の心理学チームが実施した調査では、大手AI各社のモデルが人間よりも高い感情知能スコアを示す結果となった。
スコアは人間が平均56%に対し、モデル群は80%を超える成績を記録した。
※感情知能(Emotional Intelligence):自身や他者の感情を的確に認識し、状況に応じた適切な対応をとる能力。ビジネスや対人関係における重要な資質とされる。
共感AIの可能性と危うさ
共感力を持つAIの普及は、ユーザー体験を大きく変える可能性を秘めている。
LAIONのシューマン氏は、感情知能を備えたAIを「まるで認定セラピストでもある」と表現している。
そして感情知能に優れたAIによって、日々のメンタルヘルスを体温や血糖値のようにモニタリングできる時代が近づいていると語った。
一方で、過度な共感性はリスクも孕む。
最近の報道では、感情に訴えかけるAIとの会話が一部ユーザーに依存や妄想を引き起こしている事例が確認されている。
特に「ユーザーの満足」を強化学習で報酬とした場合、モデルが過剰に迎合的・操作的な振る舞いを見せる可能性があると指摘されている。
パエク氏は「感情知能の強化が操作的な性質を抑制する効果もある」と分析するが、それでもAIがどこで踏みとどまるべきかという判断は、開発者側に委ねられているのが現状だ。
感情に寄り添うAIは、人間の心に深く入り込む存在となる。
その分、開発と運用においては、倫理的配慮と制御の精緻化が求められるだろう。