アメリカAI医療スタートアップAbridge、わずか4か月で評価額を倍増へ 53億ドルに急成長

2025年6月24日、米AI医療スクリプト企業Abridgeは、シリーズEで3億ドルを調達し、評価額を2月の27.5億ドルから53億ドル(約7690億円)に倍増させたと報じられた。Wall Street JournalやTechCrunchが伝えている。
米国を中心に急速な拡大を続けるAbridgeに注目が集まっている。
AI医療ノート自動化のAbridge、4か月で評価額を倍増
Abridgeは創業から7年の間に、臨床現場の医師と患者間の会話を自動的に文字化し、電子カルテへ反映するAI技術を提供し、医師の記録負担を大幅に軽減してきた。
今回のシリーズEはAndreessen Horowitz主導、Khosla Venturesが参加したもので、前回シリーズD(2.75億ドル評価)からわずか4か月で2倍に跳ね上がった形だ。
直近Q1では、契約済みARR(※)が1.17億ドルに達し、同社の成長性が改めて示された。
Abridgeは現在、同社のAIスクライブ技術が米国150以上の大規模医療機関で採用されている。
2025年内には5000万件超の会話トランスクリプトを支援する見通しである。
Abridgeは新資金でAIシステムと研究開発体制を拡充し、さらなる製品強化を進める予定である。
医療会話から自動的に請求コードを生成する機能の正式導入を決定し、CodaMetrixやEpic Systemsといったこの分野の先駆者と競合するフェーズに入った。
診療–記録–請求のバリューチェーン全体をAIで一気通貫させる構想が具体化しつつある。
※ARR(Annual Recurring Revenue):契約済みの継続収益を年換算した指標で、既契約でも導入前の顧客分も含まれる。
Abridgeの次の成長ステップと課題
Abridgeの急成長には、複数の実利的なメリットが見出せる。
最大の利点は、医師–患者間の会話をリアルタイムで記録・要約し、電子カルテに自動反映できるという臨床現場の効率化である。これにより医師の記録作業が大幅に軽減され、患者への対面時間の質が向上する。
また、請求コードの自動生成機能によって、事務処理の精度とスピードが向上し、医療機関の収益最大化にも寄与する可能性が高い。
一方で、音声認識と自然言語処理の精度は、医療用語の多様性や話者の訛り・音声品質などに左右されやすく、誤記録のリスクは依然として残る。
また、会話内容の機密性やプライバシーに関する規制への対応も、今後拡大する中で避けて通れない壁となる。
特に保険請求にかかわる部分では、AIの判断が誤った場合の責任の所在が問われかねない。
診療から請求までの医療プロセスの全段階をAIで一気通貫するという構想が実現すれば、単なるSaaSではなく、医療業務の基盤的インフラへと昇華するポテンシャルを持つ。
ただし、規制当局の監視は今後一層厳しくなると予想され、医療AIの透明性と説明責任をどう担保するかが、拡大戦略の成否を分ける鍵になるだろう。