TDKが米SoftEyeを買収 視線でAIとつながるグラス開発に本腰

2025年6月19日、TDKは米国の視線認識技術スタートアップSoftEyeの買収を発表した。スマートグラスを軸にAIとの直感的な対話を目指す戦略で、次世代のヒューマンマシンインタフェース(HMI)市場に本格参入する構えだ。
視線認識技術のSoftEyeを買収、TDKがAIグラス戦略を加速
TDKは2025年6月19日、米カリフォルニアを拠点とするSoftEyeの買収を正式に発表した。SoftEyeはスマートグラスに特化したセンサー、カスタムチップ、アルゴリズムなどを開発する企業で、アイインテントテクノロジー(※)と呼ばれる視線意図検出技術が最大の強みだ。
この技術は、視線の動きによってユーザーの意図を読み取り、AR/VRディスプレイやAIとの自然なインタラクションを実現するものだ。低消費電力であることも特徴的である。
TDK米州本社ゼネラルマネジャーのJim Tran氏は「SoftEyeはアルゴリズム、カメラ、低消費電力チップ設計における専門知識を有していて、これによってTDKはAR関連技術の消費者向けアプリケーションの領域においてリーダーシップを発揮する」とコメントしている。
CEOのTe-Won Lee氏も「SoftEyeは人々とAIをより直感的かつ魅力的なユーザー体験で結び付けることができ、TDKのスマートグラスに関する戦略と合致している」と語っており、視線とAIが結びつくことで生まれる新しい体験に自信を示している。
AIと視線でつながる未来 新しいHMI市場の主導権を狙う
TDKが目指すのは、視線を通じてAIと“会話”するような新しいユーザー体験だ。
視線ベースの操作は、音声が使えない環境でも有効であるため、音声入力に代わる直感的なインタフェースとして、医療や物流、製造現場など幅広い活用が見込まれる。
一方で、ウェアラブル機器の普及には価格、プライバシー、電力効率といった課題も残るだろう。視線追跡データの取り扱いには倫理面での配慮が不可欠であり、各国での規制状況やユーザーの受容性も成否を左右する要素となるはずだ。
Apple Vision Proをはじめとした高性能グラスも登場している背景を踏まえると、AR/AIグラス市場は今後注目を集めると予想できる。
TDKが部品メーカーからエクスペリエンス設計へと領域を広げる今回の動きは、ポストスマホ時代のHMI競争において、大きな布石になる可能性があるだろう。