ナウルが国家戦略としての金融制度改革 太平洋初の規制当局で経済多角化へ布石

2025年6月17日、ナウル共和国が仮想通貨規制機関の設立法案を可決した。
同地域で初となる「コマンドリッジ仮想資産当局(CRVAA)」が創設され、仮想通貨ビジネスの新拠点として国際的に注目を集めつつある。
太平洋地域初の仮想通貨規制当局がナウルに誕生
ナウル共和国議会は6月17日、仮想通貨を専門的に監督・管理する新機関「コマンドリッジ仮想資産当局(CRVAA)」の設立を定めた法案を可決した。
これにより、ナウル国内における仮想通貨関連事業の登録・運営が正式に可能となる。
同国は、太平洋に浮かぶ人口約1万人の小規模国家で、長年リン鉱石資源に依存した単一経済構造に苦しんできた。国連の「多次元脆弱性指数」において、経済・環境面で極めて高いリスクに晒されている国として評価されており、同国政府は持続的な経済再建と多角化を急務としている。
今回の規制機関設立により、ナウル政府は仮想通貨業界の成長力を梃子に、国家の財政基盤を強化する狙いを明確に打ち出した。
アデアン大統領は、「この規制導入により仮想通貨を活用した収益源多様化と経済回復力強化を図る」と説明。国際援助に依存しがちだったこれまでの財源構造からの脱却も見据えているようだ。
CRVAAは、仮想通貨交換業者やウォレットサービス提供者、ICO(※)やNFTの発行者、DeFiプロジェクト、ステーブルコイン発行者などを対象に、登録と監督を行う。
マネーロンダリングや不正資金流入を防ぐため、国際的な金融透明性プロトコルの遵守も義務付けられる見込みだ。
さらに法案では、仮想通貨を原則「商品」として分類する。有価証券とは異なる取り扱いとし、ユーティリティトークンや決済トークンを投資契約から明確に切り離す点が特徴的である。
※ICO:Initial Coin Offeringの略。仮想通貨やトークンを発行して資金を調達する手法のこと。未公開株の代わりにデジタルトークンを販売する形式。
仮想通貨誘致で経済強化へ 新興ハブとしてのリスクと期待
ナウル政府が目指すのは、仮想通貨関連企業の誘致を通じた経済の自立であろう。
CRVAAによる新制度が安定運用されれば、同国は規制明確な仮想通貨ハブとして、シンガポールやドバイのような存在に近づける可能性がある。
特に注目すべきは、トークン分類のアプローチである。仮想通貨を有価証券として扱わないことで、初期段階のWeb3プロジェクトにも参入しやすい土壌を提供できると考えられる。
商務・外国投資大臣のマーベリック・エオエ氏は「この枠組みによりナウルがデジタル経済開発の先進国と同等の競争力を獲得する」と強調している。
一方で、法制度や金融監督体制の整備には時間と人材が必要であるため、急成長する仮想通貨業界のスピードに対応できるかが課題となるだろう。
過去にも税制優遇を目当てにした国際企業誘致が脱税や資金洗浄の温床となった事例もあるため、信頼性の確保が重要になると思われる。
それでも、気候変動対策の資金調達や若年層の雇用創出といった現実的な課題に直面するナウルにとって、この一手はリスクを取る価値のある挑戦であると言える。
Web3時代のインフラ国家として、ナウルの進路は世界中の小国にとって一つの参考モデルになる可能性を秘めている。