EUに統合の「期限」設定求める仏中銀総裁 AI共同体構想で米中に対抗へ

2025年6月18日のロイターの報道によると、欧州中央銀行(ECB)理事であるビルロワドガロー仏中銀総裁が、欧州連合(EU)の金融統合に明確な期限を設けるべきとの考えを示した。さらに、米中に対抗するため、EU主導による「AI共同体」の創設を呼びかけた。
仏中銀総裁、EU金融統合に期限設定を提案 AI共同体構想も表明
欧州中央銀行(ECB)理事であるビルロワドガロー仏中銀総裁は、学生向け講演にて、欧州連合(EU)の金融統合を加速すべきだと主張し、2028年1月1日を目標期限とする案を提示した。
同氏は、EU域内に眠る個人貯蓄を域内投資へと循環させる仕組みの不備を問題視。現状では、欧州市民の貯蓄の大半が米国などの海外市場に向かっており、欧州市場が断片的で非効率なため、金融資本にとって魅力に欠けていると指摘した。
そのうえで、ドラギ前伊首相らがまとめた欧州競争力強化策のすみやかな採用を求めた。
またビルロワ総裁は、戦後の鉄鋼・石炭共同体を例に挙げ、EUはAIでも共同体を設立すべきと強調。米国や中国の先行を許している状況を危機と捉え、「リソース、才能、資金をAIに集中させれば、まだチャンスはある」と述べた。
これにより、ビルロワ氏は経済・金融分野における統合と、戦略的技術分野における連携強化の両面から、EUの競争力向上を図る構想を打ち出した形となる。
EUの経済・技術統合に向けた課題と期待
ビルロワ総裁の提案は、金融と技術の2軸でEUの競争力を底上げする狙いがある点で、長期的な成長ビジョンと評価できる。特に、域内の資本が欧州外に流出している現状に対しては、統一的な金融市場の整備が必要不可欠との認識は広く共有されている。
金融統合のメリットとしては、資本の域内循環の促進、投資機会の創出、そして通貨政策の一体運用が挙げられる。
一方、各国の経済事情や財政政策の違いが障壁となるのは依然として現実であり、加盟国間の調整に時間を要する可能性が高い。
AI共同体構想に関しては、欧州全体での研究開発の協調や、倫理基準の統一が進めば、米中に対抗し得る基盤となりうる。
だが、各国の技術投資余力や規制の方向性にばらつきがあるため、政策的リーダーシップが求められる局面だ。
今後、金融とAIの両面での統合が進展すれば、EUは単なる経済圏を超えて、戦略的自立性を高めるブロックへと進化できる可能性がある。2028年という明確な目標設定が、各国の政治的意思決定を促す契機になるか注視される。