災害画像1枚で専門家級の解析　理研ら、土砂災害を即時評価するAIを開発

2025年6月17日、国際航業と理化学研究所、東京大学、筑波大学などの研究グループが、ドローンなどで撮影された土砂災害画像1枚から、災害の種類や原因、将来リスクを分析できるマルチモーダルAIシステムを開発したと発表した。

土砂災害の画像を解析し災害タイプやリスクを即座に特定

今回発表されたAIシステムは、ドローンや衛星で撮影した土砂災害の画像に、固定の指示文「土砂災害の種類、原因、観察事項、将来リスクを説明してください」を入力するだけで、専門家レベルの分析を自動生成できる。

検証では、地滑りの画像を入力すると、「災害タイプ：Landslide（地滑り）」「原因：人為的活動と自然侵食」「観察事項：細長い山岳地域内の急斜面・露出した岩石」「将来リスク：さらなる斜面崩壊の可能性」など、精度の高い出力が得られたという。

システム開発にあたり、研究チームは過去の災害画像と専門家による音声解説をテキスト化し、「災害タイプ」「原因」「観察事項」「将来リスク」に分類して構造化データとして整理。
視覚的質問応答（VQA）と大規模言語モデル（LLM）を組み合わせるアプローチに加え、画像と指示を同時処理するエンドツーエンド方式の2種類のモデルを構築した。

訓練には日本各地の土砂災害画像68枚（データ拡張により136サンプル）を使用。
評価は従来のテキスト類似度指標に加え、LLMによる意味的評価と専門家によるレビューを併用した。

本AIの導入により、膨大な航空・衛星画像から高リスクの地すべりを自動抽出したり、消防・警察など初動対応者が専門的判断を得る手段として活用できると見られている。

AIによる災害初動支援の常態化へ　精度と運用体制が鍵を握る

今回のマルチモーダルAIシステムの開発は、災害対応の現場における情報収集と判断の迅速化を大きく前進させるものと評価できる。
特に、専門知識を持たない初動対応者が、視覚情報と簡単なプロンプトだけで専門家級の分析結果を得られる点は、現場の混乱を最小限に抑える手段として有効であると考えられる。

今後、こうしたAIの活用は、地方自治体や消防・警察といった防災関連機関の標準装備の一部となる可能性がある。
ただし、導入を常態化させるためには、モデルの精度向上とともに、現場の端末環境や通信インフラに適応した軽量な運用設計が不可欠だ。現時点では、限られた訓練データをもとにしたモデルであるため、地形や気候の異なる災害環境にも対応できる汎用性の担保が求められる。

また、AIが出力する分析結果の妥当性についても、引き続き専門家による検証体制を確保しておく必要があるだろう。AIに依存しすぎることで、誤判定や想定外のリスクを見落とす可能性があるからだ。
信頼できる補助ツールとして社会に根づくには、「人とAIの協調」という視点が欠かせない。

将来的には、ほかの自然災害、たとえば洪水や火山災害などへの応用も想定される。画像解析技術と大規模言語モデルの組み合わせが、防災分野のDXをさらに加速させていくのではないかと見られる。