仏ミストラル、欧州初のAI推論モデルを発表 米中依存に対抗する開発戦略

2025年6月10日、フランスのAIスタートアップ「ミストラル」が、欧州初となる推論モデル「マジストラル・スモール」「マジストラル・ミディアム」を発表した。
独自性と透明性を武器に、米中主導のAI市場に一石を投じる動きとして注目されている。
欧州初の推論モデル、「マジストラル」2種を同時公開
仏パリを拠点とするAIスタートアップのミストラルは10日、欧州で初となる大規模言語モデルの推論版を発表した。
リリースされたのは、オープンソース形式の「マジストラル・スモール」と、法人向け機能を強化した「マジストラル・ミディアム」の2モデルである。
マジストラル・スモールは、AI開発者向けコミュニティ「Hugging Face」のプラットフォームからダウンロード可能であり、英語、フランス語、スペイン語、アラビア語、簡体字中国語の5言語に対応している。
この発表は、欧州発のAIプレイヤーが推論モデル開発で初めて明確な成果を示した点で象徴的だ。
米国ではOpenAIやAnthropic、中国ではDeepseekやアリババなどが市場を牽引しているが、欧州勢はこれまで大規模モデルの開発・公開で遅れを取っていた。
フランス政府はこの分野を国家戦略の柱と位置づけており、マクロン大統領もミストラルを公然と支援している。
ミストラルの特徴は、モデルの一部をオープンソースとして公開している点にある。
この方針は、OpenAIやGoogleのようにクローズドな運用を行う米企業とは対照的であり、AIの民主化や研究共有の促進につながると評価されている。
オープンソース戦略を含め、今回の発表は、欧州独自のAIエコシステム確立に向けた重要な一歩とされる。
ミストラルはAI業界で存在感を増せるか
これまで、AI開発は米国がリードし、中国が追い付こうと投資を続けている構図だ。
圧倒的なシェアと多機能性を誇る「ChatGPT」や、Googleのほかのサービスと深く連携できる「Gemini」など、アメリカのAIサービスは極めて競争的だ。
一方の中国も、圧倒的にコストパフォーマンスに優れるAI、「Deepseek」が大きな注目を集めたほか、アリババなどの巨大プレイヤーも投資を推し進めている。
「欧州産のAI」はヨーロッパの悲願でもあるが、米中の激しい競争が進行する中、競合との格差は大きい。
ミストラルのAI分野のベンチャーキャピタルによる企業評価は約62億ドルにとどまり、OpenAIの900億ドル超と比べればまだ規模は小さい。
市場シェアや収益面でも追い上げには時間がかかると見られる。
それでも、オープン性と欧州発のアイデンティティは強みであり、今後は欧州域内の政府・企業との連携を深めることで、技術力と実装力の両面で競争力を高めていく可能性がある。
オープン性は中国の「Deepseek」も有しているが、韓国やイタリアでダウンロードが一時禁止されるなど、情報セキュリティリスクが指摘されることもある。
その点で差別化ができれば、勝機を見いだせる可能性があるだろう。