イルカの「言語」をAIが解析 約1400万円の賞を受賞した最前線研究

2025年5月15日(現地時間)、米ウッズホール海洋研究所のチームが、イルカの「言葉」をAIで解析する研究によりColler Dolittle Challenge初年度の賞を受賞した。異種間コミュニケーションへの道を拓く試みとして注目され、賞金は10万ドル(約1400万円)にのぼる。
AIで明らかになるイルカの“警告”ホイッスルと未知の反応パターン
研究チームを率いたのは、米国マサチューセッツ州にあるウッズホール海洋研究所のLaela Sayigh氏。調査対象はフロリダ州サラソタ湾に生息する野生のバンドウイルカ群で、米フロリダ沖に生息するイルカの群れを40年にわたって観察・記録してきたSarasota Dolphin Research Programの研究成果をもとにしている。
今回、同プログラムの音声ライブラリーを活用し、非侵襲的なハイドロフォン(水中マイク)で収録されたホイッスル音をディープラーニングで解析することで、イルカの間で共有される「意味のある音」が存在する可能性が示唆された。
特定のホイッスルは警報音として機能し、別のパターンは予期せぬ状況への反応であることが確認されたという。こうした音声パターンは、群れの複数個体が共通して使う「語彙」に近い役割を持つと見られている。
Coller Dolittle Challengeが評価したのは、単なる生物学的調査にとどまらず、異種間コミュニケーションという壮大なテーマへの実用的アプローチであった。こうした試みは、人間と他種生物との理解の境界を押し広げる研究として国際的な注目を集めている。
動物の「声なき言葉」を可視化するAIの力と今後の進展予測
この研究において、中心的な役割を果たしているのがAIである。記録された膨大なホイッスル音声を解析し、意味のあるパターンを抽出することで、従来困難だった「言語の構造化」に道を開いている。
審査員を務めたロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのJonathan Birch教授は、動物コミュニケーションの解読は常に「データ不足」が障壁になっていたと指摘。Sarasota Dolphin Research Programの蓄積データが、このボトルネックを乗り越える鍵になっていると語った。
さらに、Earth Species ProjectのCEOであるKate Zacarian氏は、AIが動物のコミュニケーション研究を「より豊かで動的な現象」として再定義する可能性に言及。静的な記号解読に留まらず、音のリズムやタイミングといった文脈的要素の分析も可能になると期待されている。
Coller Dolittle Challengeは、ジェレミー・コラー財団とテルアビブ大学の協力によって設立された新しい科学賞であり、次年度の応募は2025年8月に開始される見通しだ。
AIと生物学の融合が加速するなかで、来年以降さらなるイノベーションの波が生まれる可能性も高い。