中性子を出さない核融合で世界を変える、株式会社LINEAイノベーションの“遠い未来”から“今”への挑戦

株式会社LINEAイノベーション(以下、LINEAイノベーション)は、「中性子を出さない核融合技術」に挑むユニークな核融合スタートアップです。同社は、日本大学・筑波大学の教授陣と、ディープテック領域で豊富な経験を持つ野尻悠太氏が共同創業。従来の課題であった中性子による材料劣化や放射性廃棄物の問題を根本から回避する技術に取り組んでいます。2030年代初頭の発電実証を目標に、シリーズAラウンドではベンチャーキャピタルのほか、三菱電機株式会社や株式会社大林組などからの出資を受け、堅実かつ野心的な企業文化のもと、着実にステップを進めています。
今回は、LINEAイノベーションの共同創業者であり代表取締役CEOを務める野尻悠太氏に、創業の経緯や技術的優位性、世界と競うための事業戦略、そして、未来の仲間に求める姿勢について詳しくお話を伺いました。
株式会社LINEAイノベーション 共同創業者 / CEO
野尻 悠太(のじり ゆうた)
みずほ証券にて投資銀行業務に従事した後、宇宙関連など複数のディープテック系スタートアップでCFO・COOを歴任。累計10年にわたり経営・資金調達・組織構築に携わり、1社では上場を主導、上場企業での取締役経験も有する。2024年、日本大学の浅井教授および筑波大学の坂本教授とともに、FRCミラーハイブリッド方式による“中性子を出さない核融合”を目指す株式会社LINEAイノベーションを共同創業。ビジネスサイドを統括し、技術と事業の橋渡し役を担う。2025年より代表取締役CEOとして本格的に指揮を執る。
偶然の出会いから始まった挑戦──中性子を出さない核融合で「2030年代初頭の発電実現」へ
——LINEAイノベーションの創業にあたり、野尻さんが参画された経緯を教えてください。
野尻氏:
当社は、日本大学の浅井教授、筑波大学の坂本教授、そして私の3名で共同創業しました。設立のきっかけは、核融合の研究者である浅井と坂本の両教授がそれぞれ異なる技術を持っており、話し合いの中でそれらを組み合わせれば、従来にない革新的な核融合炉が実現できるのではないかというアイデアに至りました。
ただ、両教授は「技術だけではなく経営も担える第三の創業者が必要」と考えており、私の知人を通じてその話を聞きました。私は核融合の専門家ではありませんが、話を聞く中で強い興味を持ち、何度も質問を重ねて理解を深め、「これは実現可能で、非常に面白いテーマだ」と確信を持ちました。こうして、CEOとして共同創業に加わることを決めました。
——代表取締役CEOとしての就任はいつからでしょうか?
野尻氏:
正式にCEOとしての役割を担うようになったのは2024年8月からです。当初の合意として「フルコミットできる状態になった段階でCEOに就任する」という形で参画しており、前職の業務整理を終えた段階での就任となりました。
——もともと核融合分野には関心があったのでしょうか?
野尻氏:
いえ、完全に偶然の出会いでした。紹介してくれた方が、私がディープテック領域の経験を積んでいたことを知っており、「野尻であれば、核融合領域でも活躍できるのでは」と判断して引き合わせてくれた形です。
——ちょうど転職を考えていたタイミングだったのでしょうか?
野尻氏:
はい。前職では2023年に上場を経験し、ある程度の区切りを迎えていた時期でした。非常に良いタイミングでの転機だったと思います。
——そんな中、LINEAイノベーションはどのようなゴールを掲げているのでしょうか?
野尻氏:
私たちの大きなマイルストーンは、「核融合によって電気を起こす」、つまり発電を実現することです。これは核融合業界全体でも重要なテーマですが、当社はそれを2030年代初頭までに実現することを目標にしています。通過点ではありますが、この目標に向けて着実にステップを進めていきます。
「中性子を出さない核融合」で世界に挑む──リニア・イノベーションの技術戦略と展望
——数ある核融合スタートアップの中で、リニア・イノベーションに参画を決めた理由を教えてください。
野尻氏:
最も大きな理由は、最終的なゴールとそれを実現するための道筋が明確だったことです。他の多くの研究機関やスタートアップが取り組んでいるのは、中性子が発生するタイプの核融合です。しかし中性子は、放射線による材料劣化や廃棄物処理などの厄介な問題を引き起こします。
もちろん、中性子を伴う核融合反応も技術的には成立しますが、それを商業化するには高いハードルを乗り越える必要があります。当社が目指しているのは、中性子を発生させないタイプの核融合反応であり、これが実現すれば、こうした問題をそもそも回避することができます。
他社がこの方式を選ばないのは、単純に難易度が高いからです。しかし、当社にはこの中性子を出さない核融合反応を実現するための明確な技術的方針と方法論があります。リスクはありますが、それ以上に取り組む価値があると感じ、私はこのプロジェクトに参画しました。
——御社は他の核融合スタートアップとどう違うのでしょうか?
野尻氏:
現在、日本でも京都フュージョニアリング株式会社、株式会社Helical Fusion、株式会社EX-Fusion、など多くのスタートアップが登場していますが、当社はそれらとは異なる方式を採用しています。ゴールもアプローチも異なるため、単純な比較はできませんが、私たちの方式は最終的な社会実装を強く意識した技術設計になっています。
——日本のエネルギー政策において、核融合の位置づけはどのようになると考えていますか?
野尻氏:
私たちは、核融合発電が本格的に実現できれば、火力や原子力を完全に代替できると考えています。もちろん、コストの実現性は重要な前提ですが、それをクリアできれば、核融合には既存の発電方式を超えるポテンシャルがあります。
日本は燃料資源を輸入に頼っているため、エネルギー安全保障の観点でも核融合は非常に有力な選択肢です。当社が取り組む軽水素とホウ素を用いた核融合や、他社が注力するDT反応(重水素と三重水素)も、将来的に自給可能な技術として期待されています。
——国際的な競争環境についてはどのように見ていますか?
野尻氏:
核融合をテーマにしたスタートアップは世界中にあり、特にアメリカは進んでいます。スタートアップ文化や資金調達環境が整っていることもあり、巨額の資金を得ている企業も多いです。
当社もすでにアメリカのTAE Technologies, Inc. と協力覚書(MOU)を結んでおり、基盤となるサイエンスの部分では連携しています。実は、TAEと当社は「FRC(Field-Reversed Configuration)」という同じタイプのプラズマ閉じ込め方式を採用しており、競合でありながらも技術基盤での共通性があります。
——事業の今後についても教えてください。
野尻氏:
当社は2030年代初頭に発電の実証を目指していますが、その前段階として、まず今後2〜3年以内に核融合反応の実証を目指しています。先日実施したシリーズAラウンドでの資金調達は、このステップに向けた研究開発資金として確保しました。
今回の調達には三菱電機株式会社や株式会社大林組といった大手企業も参加しており、私たちはこの資金を最大限活用し、まずは核融合反応の実証に集中して取り組んでいきます。
経験豊かな少数精鋭チームが挑む、核融合という“ムーンショット”──LINEAイノベーションの組織と働き方
——現在のLINEAイノベーションの組織体制について教えてください。
野尻氏:
現在の正社員は5名で、そのうち4名が研究開発、1名がコーポレート担当という体制です。若手メンバーは、日本大学や筑波大学といった、共同創業者である浅井・坂本両教授が所属する研究室の出身者が中心です。一方で、大手電機メーカーから転職してきた中堅メンバーも在籍しており、彼はリファラルでジョインしました。
——カルチャー面では、どのような社風があるのでしょうか?
野尻氏:
意外に思われるかもしれませんが、当社は非常に堅実なカルチャーを持っています。核融合というムーンショット的なテーマに取り組んでいますが、実現不可能なことまで「できる」と断言するような雰囲気ではありません。あくまでエビデンスと技術に基づき、誠実にテクノロジーを構築していく会社です。目標は高く掲げていますが、情熱だけで突き進むのではなく、冷静さも重視しています。
——野尻さんご自身も、これまでスタートアップに多く関わってこられたと伺いました。
野尻氏:
はい。私は以前、宇宙関連のスタートアップでCFO兼COOとして約10年間在籍し、スタートアップ以外ではCFOとして上場も経験しました。LINEAイノベーションは、若手主体で立ち上げたスタートアップとは異なり、ある程度キャリアを積んだ世代が立ち上げた会社でもあります。その分、円熟味をもった組織になっていると感じています。
——現在働かれている方々の勤務体制についても教えてください。
野尻氏:
技術系メンバーは、主に日本大学や筑波大学など、研究設備のある場所で業務に従事しています。現場で物理的に取り組む必要のある作業が多いためです。一方、私や山口などコーポレート系のメンバーは東京を拠点に働いており、必要に応じて大学へ出向くこともあります。基本的には出社が中心ですが、リモートワークも柔軟に取り入れています。
——大学との連携体制についてはいかがですか?
野尻氏:
浅井や坂本は現在も大学の教授職を兼務しており、それぞれが大学に籍を置いたまま、当社での活動にも参加しています。研究者のメンバーも同様に、大学の研究室を拠点に業務を行っています。学術との連携を活かしながら、企業としての核融合実現に取り組んでいるのが私たちの特徴です。
「核融合は“永遠の30年後”ではない」──挑戦をともにする仲間を求めて
——リニア・イノベーションでは、今後どのような人材に参画してほしいとお考えですか?
野尻氏:
私たちの挑戦を「面白い」と感じてくださる方にぜひ来ていただきたいと考えています。当社は、ゴールから逆算する思考をベースに、真に社会実装可能な核融合技術の実現を目指しています。そうした考え方に共感してくれる方と、一緒に取り組んでいけたらうれしいですね。
——研究者だけでなく、コーポレート系の人材にも門戸は開かれているのでしょうか?
野尻氏:
はい、もちろんです。すでに他の核融合スタートアップでも、研究以外の分野では多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっています。当社としても、そうした業界外からの優秀な人材を積極的に迎え入れたいと考えています。
——実際に働かれている方々も、さまざまなキャリアを経てジョインされているようですね。
野尻氏:
はい。たとえば、コーポレート全般を担当している山口は理系出身で、私とは別の宇宙系企業で勤務した後、日本大学で研究員を経て当社に加わりました。浅井の研究室出身で、一度核融合関連業界に入り、最近までは実家の技術系企業で働いていたメンバーもいます。また、筑波大学を卒業して異分野で技術職に従事していた者、日本大学の博士課程を修了してポスドクを経て当社に入った者、大手電機メーカーで近接分野の技術を扱っていたシニア人材など、非常に多様な経歴のメンバーが集まっています。
——最後に、このメディアをご覧の読者に向けたメッセージをお願いします。
野尻氏:
私も当初は「核融合」と聞いて、遠い未来の話だと感じていました。今でこそニュースで取り上げられるようになってきましたが、以前は「核融合は永遠の30年後」と言われることもありました。ですが、私が今の技術に出会い、「これは実現できる」と確信を持てたことで参画を決めました。
この場をお借りしてお伝えしたいのは、核融合はもはや夢物語ではなく、現実に近づいているということです。そして、もしこの分野に関心を持ってくださるなら、私たちの会社に限らず、業界全体として大歓迎です。「挑戦したい」という気持ちを持つ人が増えることは、非常に心強く、ありがたいと感じています。