サウジアラビア皇太子がAI企業「HUMAIN」を設立、アラブ圏主導のAI戦略が始動

2025年5月12日(現地時間)、サウジアラビアのムハンマド皇太子が新たなAI企業「HUMAIN(ヒューメイン)」の設立を発表した。国家主導でAIバリューチェーン全体を網羅する取り組みであり、中東発のAI産業構築に向けた象徴的な動きといえる。
「HUMAIN」は国家戦略「Vision 2030」の中核、PIF主導でアラブ圏最高峰のAI基盤へ
「HUMAIN」はサウジアラビア政府系ファンドであるPIF(Public Investment Fund)が所有し、ムハンマド皇太子が会長を務める新設AI企業である。
政府が掲げる経済多角化戦略「Vision 2030」の実現を担う旗艦プロジェクトとして位置づけられており、AIを軸とした次世代インフラ整備に乗り出す見込みだ。
本企業は、AIバリューチェーン全体を事業領域とする統合型企業体であり、その提供サービスには「次世代データセンター」「AIインフラおよびクラウド基盤」「産業別AIモデルとソリューション」に加え、「マルチモーダル・アラビア語LLM(大規模言語モデル)」(※)が含まれる。
特に注目されるのが後者で、アラビア語対応のLLMとして世界最高水準を目指すとしている。
PIFは1971年に設立されたサウジ政府の公式投資機関であり、2024年時点での運用資産は約9250億ドルに上る。これまでにソフトバンク・ビジョン・ファンドやUberへの出資を通じて、国際的なテクノロジー投資の実績を築いてきた。
同ファンドが主導するHUMAINは、こうした投資先との連携も想定され、AIにおける国際的なプレゼンス拡大に向けた土台として機能するだろう。
※マルチモーダルLLM:テキスト、画像、音声など複数の情報形式(モーダル)を統合的に処理できる大規模言語モデルのこと。言語理解と応答精度が高いのが特徴。
中東発のAIエコシステム構築、HUMAINがもたらすビジネス機会と課題
HUMAINの設立は、AI市場において新たな地域プレイヤーの台頭を示している。
これまで中国やアメリカが主導してきたAIインフラ市場に、サウジアラビアが国家規模で参入することで、アジア・アフリカ地域との接点を持つ新興市場へのAI技術展開が進む可能性が高い。
また、アラビア語に特化したAIモデルは、教育、行政、金融、医療といった公共領域への応用が見込まれ、域内スタートアップや国営企業との連携強化にもつながると考えられる。
HUMAINはインフラ投資とモデル開発を一体で行う統合型企業であるため、AI導入の初期段階から運用フェーズまでを一括で担える強みがあると思われる。
この包括的アプローチは、外資依存からの脱却を志向するサウジ国内の戦略とも一致する。長期的には、AI人材の育成拠点や研究機関との連携を含めた「サウジ版AIクラスター」の形成も視野に入ってくるだろう。
一方で、AI倫理や情報管理に関する国際規範との整合性、外資とのバランス、そして内政へのAI導入に関わる透明性の確保など、課題も存在する。
HUMAINが掲げる技術的目標がいかに現実化されるかは、国家戦略としての持続性と実行力にかかっているといえるだろう。