Google、競合流出阻止のため「何もしない」AI人材を雇用と報道 激化するAI人材の確保競争

Google傘下のAI研究所であるDeepMindは、競合企業への人材流出を防ぐため、一部のAI研究者に対し「何もしない」期間中も給与を支払い続けているという。現地時間2025年4月7日、米メディアTechCrunchとBusiness Insiderが報じた。
ライバル企業への人材流出を防ぐ措置と見られ、世界規模で激化するAI人材争奪戦の実態を浮き彫りにしている。
「有給で休職」状態が生む静かな引き留め
Googleは、AI部門であるDeepMindを通じて、英国在籍のスタッフに対し、競業避止契約(non-compete clause ※)を結んでいる。
これは、研究者が他社に転職するのを防ぐため、最長1年間、実質的に業務から離れても給与を支払う制度だ。
TechCrunchによれば、対象となる人材は、契約期間中は研究や開発などの業務には一切従事しないという。
この対応は、AI分野における熾烈な人材獲得競争の結果とも言える。
OpenAIやMicrosoftといった他の企業が次々と成果を上げる中で、Googleは有望な人材を失うリスクを低減させることを優先している。
だがこの施策は、表向きには「保護」だとしても、現場の研究者にとっては技術革新から取り残されるという焦燥感を生む懸念もある。
Business Insiderの報道では、研究者の一部がキャリアの停滞を強く懸念しているという。
なお米国では、連邦取引委員会がほとんどの競業避止契約を違法とする方針を発表したが、この規制は英国のDeepMindロンドン本社には適用されない。
この法的なギャップを突く形で、Googleは「選択的に」契約を運用しているとされる。
※競業避止契約:従業員が退職後一定期間、競合他社で働くことを禁じる契約。特許や機密情報の流出防止を目的とするが、キャリアの自由を制限するため法的な議論も多い。
AI人材の囲い込みへの賛否両論の声
この「何もしないスタッフ」の雇用戦略に対する業界の反応は賛否両論だ。
MicrosoftのAI担当VPは2025年3月下旬、自身のXアカウントで「DeepMindのスタッフが競業避止から逃れようと連絡を寄せてきている」と明かした。
現場の人間の一部が、制度をよく思っていない現実を裏付けるものだ。
短期的に見れば、優秀な人材を他社に取られずに済むという点で企業にとっては有効な戦略であると言える。
しかし、中長期的にはモチベーション低下やイノベーションの停滞といった問題を招く可能性もあり、手放しには評価できない。
特にAIのように日進月歩で進化する分野では、たった1年の空白が研究者にとって致命的な遅れになることもありえるため、優秀な研究者のキャリアを台無しにする可能性さえある。
また、こうした契約の選定基準や透明性については明らかにされておらず、不透明感も拭えない。
今後、AI人材の希少価値はさらに高まり、企業間の争奪戦は加速するだろう。
同時に、労働者のキャリア選択の自由や成長機会をどう守るかという課題が、業界全体に突きつけられている。
AI開発の激化は、こうした倫理的・制度的判断にも左右される局面を迎えている。
参考:Techcrunch記事