マイクロソフト、気象予測AI「Aurora」発表 従来比5,000倍の速さで高精度

2025年5月21日(米国時間)、米マイクロソフトと研究機関の合同チームは、気象や地球環境の予測に特化したAI基盤モデル「Aurora」の研究結果を発表した。この成果はNature誌でも掲載され、GitHub上で一般公開もされている。
台風や砂嵐も数日前に予測 Auroraの性能が既存モデルを凌駕
「Aurora」は、100万時間超の地球物理学的データで訓練された大規模AIモデルである。主に気象予報や気候シミュレーション、再解析データなどを用いた事前学習を経て、13億パラメータ規模の精緻なモデルが構築された。
このモデルは、入力データを普遍的な3次元表現に変換するエンコーダ、時間軸方向に進展させるプロセッサ、そして3D情報を物理的予測に変換するデコーダの3構成からなる。
プロセッサには3D Swin Transformer、エンコーダおよびデコーダにはPerceiverベースの技術が採用された。
性能面では、台風「ドクスリ」(2023年7月)の進路予測において、世界の主要気象機関の予報を上回る精度を示した。
さらに、2022年の台風14号「ナンマドル」による波高も、欧州中期予報センターの最先端波浪モデルより正確に捉えたとされる。
加えて、大気化学分野でも高い成果が報告されている。2022年6月にイラクで発生した大規模砂嵐を、発生の1日前にAuroraが予測した。コペルニクス大気モニタリングサービス(CAMS ※)の予測と比較しても、多くの指標で同等以上の精度を記録している。
高精度×高速処理で気象予報の常識を変える可能性
Auroraの最大の強みは「予測速度」と「運用効率」である。高性能GPU上で動作すれば、従来モデルが数時間かかる予報処理を、わずか数秒で完了できる。これは最大で5,000倍の高速化に相当し、従来の数値予報手法とは一線を画す。
この高速性は、インフラが整っていない地域や新興国において重要な役割を果たす。
例えば、リアルタイム性が求められる局地的災害予測や洪水シミュレーションなど、多様なユースケースへの活用が見込まれる。高解像度かつ即時性のある予測が、命を守るツールとして機能する未来が現実味を帯びてきた。
一方で、MicrosoftはAuroraを既存システムの「代替」ではなく、「補完」として位置づけている。現段階では、観測網や物理モデルに裏打ちされた既存予報との併用が最も効果的とされており、Auroraの導入は段階的に進むと見られる。
それでも、この分野でAIが果たす役割は今後さらに拡大する可能性が高い。高精度な予報だけでなく、コスト削減や気象業務の迅速化など、社会全体の恩恵につながる点でAuroraの影響力は計り知れない。
企業の防災対策や保険分野への応用も視野に入り、民間市場にも波及が期待される。
※CAMS:欧州連合が運用する大気環境監視サービス。全球規模での大気化学予測を行っている。