トランプ大統領の“偽動画”がHUD本庁舎で再生　AI技術悪用に波紋

2025年2月24日、米国住宅都市開発省（HUD）の本庁舎内で、ドナルド・トランプ大統領がイーロン・マスク氏の足の指をしゃぶるというAI生成の偽動画が再生され物議を醸している。

HUD本庁舎での偽動画再生と政治的背景

問題の動画は、トランプ大統領とマスク氏の関係を風刺するもので、「真の国王万歳」というキャプションが付けられていた。HUDの報道官であるケイシー・ラヴェット氏はこの行為を「税金の不正利用」と非難し、関係者の特定と適切な処分を行う意向を示した。

今回の事件は、AI技術を用いて作成された偽動画、いわゆる「ディープフェイク」が公共機関内で再生された初の事例として注目されている。
ディープフェイク技術は、著名人の映像や音声を高度に合成し、実際には存在しない出来事をあたかも現実のように見せることが可能である。この技術の悪用は情報の信頼性や公共の混乱を招く可能性があり、社会的な影響が懸念されている。

ディープフェイク動画が作成された政治的背景として、トランプ氏とマスク氏の関係が挙げられる。
マスク氏は政府の効率化を推進する「政府効率化省（Department of Government Efficiency、略称：DOGE）」の責任者として任命されており、連邦政府のコスト削減や業務効率化に取り組んでいる。しかしこれらの改革は公務員の間で不満を招いており、今回の偽動画はマスク氏の影響力やトランプ政権の政策に対する内部からの抵抗の一環と見られている。

また、トランプ政権は最近、交通渋滞の緩和や環境改善を目的とした渋滞税の認可を取り消した。
それに際し、トランプ大統領は先日、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」で、「渋滞税は死んだ。マンハッタンとニューヨーク全体が救われた。国王万歳！」と投稿した。
この投稿が、偽動画内の「真の国王万歳」というキャプションに影響を与えたとみられている。

今後の影響

今回の事件はAI技術の悪用による情報操作の危険性や、政治的風刺が公共機関内で行われることの影響について、社会全体で議論を深める契機となる可能性がある。

まず、ディープフェイク技術の規制強化は避けられないだろう。
特に、公的機関や政治分野での使用に関しては、厳格な管理体制が求められるようになるはずだ。政府機関がAI生成コンテンツを監視する専門チームを設立し、違法なディープフェイクの特定と削除を迅速に行う仕組みが構築される可能性が高い。

また、技術的な対応として、ディープフェイクの識別技術がより精度を増すと考えられる。メディアプラットフォームや政府機関がAIを活用し、動画の真偽を判別するシステムを導入することで、偽情報の拡散を防ぐ取り組みが進むだろう。

一方で、ディープフェイクを完全に排除することは難しく、今後も新たな形での情報操作が行われると予想される。社会全体として「視聴者側のリテラシー向上」が不可欠になるだろう。
教育機関やメディアは、AIによる情報操作のリスクを広く伝え、一般市民がフェイクコンテンツを見抜く力を養う必要がある。

ディープフェイクの問題は、技術・法律・社会意識の三方向から対策を講じることが求められる局面に突入していると言える。