貝印、生成AIを活用したブランドムービーを公開　制作期間を3分の1以下に短縮

貝印は2025年3月10日、生成AIを活用したブランドムービーを公開した。
本プロジェクトは映像制作会社ピラミッドフィルムと共同で実施され、AI技術の導入により従来のCG制作に比べて制作期間を3分の1以下に短縮した。
ブランド「旬」の市場拡大を背景に、AIがどのように映像制作を変革したのか、その詳細を見ていく。

ブランド「旬」の拡大とAIによる映像制作の変革

貝印の包丁ブランド「旬」は2000年に欧米市場への展開を開始し、2022年10月には累計出荷台数1000万丁を突破するなど、国際的な成功を収めている。
このブランドのさらなる認知向上を目的に、貝印は今回のブランドムービーを制作するに至った。

従来の映像制作では、高精細なCGを作成するために膨大な工数とコストがかかるのが一般的だった。しかし、今回のプロジェクトでは「PYRAMID AI（※）」を活用することで、制作プロセスを大幅に効率化した。
AIが短時間で映像を生成し、それをプロダクション「PTHREE」が補完することで、クオリティを維持しながらも従来より短期間で完成させることに成功した。

クリエイティブ・ディレクターを務めた鈴木曜氏によると、「AIは高精度な映像を短期間で生成できるが、一部の表現には新たな撮影素材を用いる必要があった」という。
特に、ブランドの特徴をより鮮明に伝えるためには、人間の手による補完が重要な役割を果たした。

※PYRAMID AI：ピラミッドフィルムが開発した映像制作向けの生成AI技術。AIが自動で映像を生成し、従来のCG制作よりも短期間で高精度なビジュアルを実現する。

生成AIによる映像制作のメリットと今後の展望

生成AIを活用した映像制作の手法は、今後より幅広い業界へと波及していく可能性が高い。
特に、コスト削減と制作スピードの向上が求められる広告業界やエンターテインメント業界においては、AI活用が標準的なプロセスとなるかもしれない。

また、技術の進化によってAIの精度が向上すれば、人間による補完の必要性はさらに減少するだろう。現在は撮影素材を組み合わせることで完成度を高めているが、将来的にはAIが細かなディテールまで自動生成できるようになり、完全にAI主導の映像制作も現実味を帯びてくる。

しかし、映像表現の質を保つためには、AIと人間の役割分担をどのように最適化するかが課題となる。技術が発展しても、ブランドごとの世界観やメッセージを適切に伝えるためには、人間の感性や創造性が不可欠だ。したがって、今後は「AIによる効率化」と「人間による付加価値の創出」を両立させるアプローチが求められるだろう。

総じて、生成AIを活用した映像制作は、コストと時間の制約を克服しつつ、新たなクリエイティブの可能性を切り開く技術である。しかし、その発展の中で、オリジナリティの維持やクリエイターの役割変化といった課題にどう対応するかが、今後の大きな焦点となるだろう。