中国、「自立自強」を目指しAIへの融資拡大 更なる財政出動も

中国の経済官庁や金融当局のトップらは2025年3月6日、全国人民代表大会(全人代 ※1)に合わせて、人工知能(AI)やロボットなどの科学イノベーション分野への融資拡大を行う方針であると発表した。
現在の融資規模を5千億元(約10兆円)から最大1兆元に引き上げる計画だ。
技術革新を加速する中国の融資政策
中国人民銀行の潘功勝総裁は、AIやロボット産業を中心とした科学技術イノベーションへの融資拡大方針を発表した。これにより、現在の5千億元の融資規模が最大1兆元に倍増される予定だ。
この融資は、人民銀行が商業銀行に低金利で資金を供給し、商業銀行が企業へ貸し出す仕組みとなっている。
この政策の背景には、中国が米国の半導体輸出規制などにより、先端技術の確保が難しくなっている状況がある。
特にAI分野では、米国主導の技術供給網からの脱却を目指し、自国産技術の開発と普及を加速させる必要がある。中国政府は「自立自強(※2)」を掲げ、国家レベルで技術革新を推進する姿勢を強めている。
融資の対象となるのは、特にAIやロボット技術を活用する企業であり、ハードウェアからソフトウェアに至るまで幅広い分野を含む。
政府の支援を受けた企業は、技術開発の加速と市場競争力の向上を図ることが可能になる。
財政出動の可能性と国際的影響
中国の藍仏安財務相は、経済の不確実性に対応するため、さらなる財政出動の準備があることを明らかにした。現在、中国経済は不動産市場の低迷や輸出の鈍化などの課題を抱えており、政府は積極的な財政支出によって景気の下支えを図る可能性が高い。
この融資拡大が国際市場に与える影響も大きい。
特に米国は、中国の技術的自立を警戒しており、半導体規制や技術移転の制限を強化する動きが続いている。
欧州やアジア諸国は、中国の技術発展が経済成長を促す一方で、自国産業への影響を懸念する声もある。
今後、中国はAIやロボット産業を重点分野として強化し、独自の技術基盤を確立する方向に進むだろう。特に、自立自強の方針に基づき、ハードウェアとソフトウェアの両面で研究開発が加速すると考えられる。
これにより、国内企業の競争力が向上し、特定分野では米国や欧州の企業と競合する水準に達する可能性もある。
一方で、国際的な対立が深まることで、中国の技術発展には制約がかかることが予想される。特に、半導体分野においては、米国を中心とした規制の影響で先端技術の確保が難しくなり、独自の供給網を構築する必要がある。
そのため、短期的には技術面での課題が残るが、長期的には中国国内での研究開発投資が増大し、徐々に自給率が向上する流れになるのではないだろうか。
今後は、中国がAIやロボット技術の進展を武器に、国際市場での影響力を強める一方、米国や他国との競争や規制の影響をどう乗り越えるかが鍵を握るだろう。
※1 全国人民代表大会(全人代):中国の最高立法機関であり、政府の政策方針や予算案が議論される年次会議。
※2 自立自強:中国政府が掲げる政策方針であり、外国技術への依存を減らし、自国の技術力を強化することを指す。