メタバース時代のブロードバンド　新時代の通信インフラについて予測

2024年9月にWBBA（World Broadband Association）が公開したメタバースとネットワークに関するレポートは、メタバースや拡張現実（XR）アプリケーションの普及に向けたブロードバンドネットワークについて詳細な記載がされている。このレポートはメタバースの業界団体であるMetaverse Standards Forum（MSF）との共同作成によるものである。

レポートの内容

WBBAのレポートによると、現在のXRアプリ利用には6～35Mbpsの帯域幅と60ms未満の遅延が必要であるが、2027年には35～120Mbpsと30ms未満に増加すると予測されている。
メタバースとXRの普及には、PON（光学技術を使用したネットワーク）ベースの光ファイバーネットワークの大容量化、Wi-Fi 7への移行、400/800Gbpsイーサネット規格導入などのネットワーク進化が不可欠となる。
2030年時点で光ファイバー普及率が低い地域では、25/50Gbps対応のOLT（光回線終端装置）導入が求められている。

経済的な利益

レポート内には、マーティン・クリーナー理事長がメタバースとXR技術が開発途上国に社会経済的利益をもたらす必要性を強調している。また、レポートはメタバースとXRアプリケーションを支えるためのネットワークインフラの重要性を指摘し、将来の技術進化に対応するための具体的な提言を行っている。

今後の展望

2030年に向けて、ブロードバンド技術はさらに進化し、メタバース体験はよりリアルで没入感のあるものへと発展するだろう。特に、光ファイバーの普及が進んだ地域では、120Mbps以上の高速通信が標準化し、遅延もほぼゼロに近づくと考えられる。その結果、遠隔でのVR会議やバーチャルイベント、デジタルツインを活用した産業用途などが一般化するだろう。

一方で、開発途上国や通信インフラが遅れている地域では、5Gや6Gを活用した無線通信技術が鍵を握る可能性が高い。特に、衛星通信との組み合わせによって、光ファイバーの敷設が難しい地域でも安定した通信環境が提供されることが期待される。

技術進化の面では、AIを活用したネットワーク最適化や、エネルギー効率の高いデータセンター技術の導入が不可欠となる。持続可能なインフラ構築のためには、再生可能エネルギーの活用や、通信設備の省エネ化といった取り組みが加速するだろう。

また、メタバースの普及に伴い、通信インフラの課題だけでなく、プライバシーやセキュリティの問題も浮上する。特に、大量の個人データがやり取りされる環境では、分散型アイデンティティ（DID）やブロックチェーン技術を活用したデータ管理が求められるだろう。この点を怠れば、メタバースの信頼性が損なわれ、普及の妨げとなる可能性もある。

総じて、ブロードバンドの進化はメタバース時代を支える重要な要素であり、通信インフラの整備が今後の技術発展の鍵を握る。課題は多いものの、持続可能な成長を実現するための技術革新が進めば、より公平で快適なデジタル社会が実現すると考えられる。