鳥取県、性的ディープフェイクに行政罰導入へ　AI悪用に抑止策強化

2025年6月1日、鳥取県がAI技術を悪用した「性的ディープフェイク」に対し、行政罰として過料を課す条例改正案を県議会に提出する方針であることが報じられた。国内での児童保護対策の先進例となる見込みである。

刑事罰導入を断念、過料による抑止へ転換

鳥取県は、AI技術を使って子どもの顔をわいせつ画像や動画に加工する、いわゆる「性的ディープフェイク」の作成や提供を禁止する条例のさらなる改正に踏み切る。
6月9日に開会予定の定例県議会に、違反者に行政罰として過料を科す改正案を提出する方針である。

同県では、2025年4月に施行された「青少年健全育成条例」の改正により、AIによるわいせつ合成物を児童ポルノと定義し、県内の子どもの顔を用いた作成や他人への提供を明確に禁止していた。
しかし、当初検討されていた刑事罰の導入について、検察庁が否定的な見解を示したことが県関係者への取材で明らかになったという。

この状況を受け、県は条例の実効性を確保すべく、行政罰である過料制度を盛り込む方針へと転換した。新たな改正案では、罰則が明文化され、抑止効果のある枠組みが初めて制度的に整うこととなる。

鳥取県は6月4日に有識者を交えた会議を開き、インターネット上の画像流通やAI倫理に詳しい専門家の意見を聴取する予定である。今後の法制度設計に反映させる考えだ。

技術の進化に追いつく法整備　抑止力と運用のバランス問われる

今回の条例改正方針は、急速に進化する生成AI技術への対応として、行政が積極的に動き始めた象徴的なケースと言える。全国的にも性的ディープフェイク問題への対応は法的空白が目立っており、鳥取県の事例は他自治体にとっても先例となる可能性が高い。

行政罰の導入によって、現行法で取り締まりが困難だった軽微なケースにも一定の歯止めがかかると期待されている。特にSNSや画像生成アプリを通じて匿名・短時間で拡散可能な現代において、スピーディーな行政処分の枠組みは被害防止の観点からも有効だ。

一方で、過料に実効性があるかどうかには懸念も残る。悪質な利用者が海外サーバーやVPNを通じて匿名化を図るケースでは、発見・立証のハードルが高いままという課題もある。
また、過料の金額設定や支払い命令の強制力など、制度設計の詳細次第では形骸化するリスクも否定できない。

ビジネス界では、生成AIを活用するスタートアップやクリエイティブ産業が急増する中、技術の適正利用と悪用リスクの線引きが求められている。今回の鳥取県の対応は、単なる地方行政の一措置にとどまらず、全国的なAI規制議論を加速させる引き金となる可能性がある。