AIが描く宇都宮市の2050年 日立システムズらが政策シミュレーションを発表

2025年5月22日、日立システムズ、KPMGコンサルティング、宇都宮市の3者は、AIによる政策シミュレーションの共同研究結果を公表した。
人口減少と高齢化が進む同市において、2050年の未来像を描く7つのシナリオを提示し、政策立案の高度化を目指す。
AIが導き出した7つの未来像、宇都宮市の2050年を可視化
日立システムズ、KPMGコンサルティング、宇都宮市の3者は、AIを活用した政策シミュレーションによって、2050年の宇都宮市に関する7つのシナリオを導き出した。
これは宇都宮市の「第6次総合計画後期基本計画」などから抽出した358の指標と、過去10年間のデータをもとに約2万通りのAIシミュレーションを実施した結果である。
最も良好な結果が得られたシナリオの実現には、2030年・2031年・2043年・2044年という4つの重要な転換点での政策介入が必要だとされている。
特に、ネットワーク型コンパクトシティを軸としたまちづくりが、長期的な人口減少や高齢化の影響を緩和する鍵になるという。
研究は、「いつ」「どのような施策」に注力すべきかを可視化することで、感覚に頼らない合理的な政策決定を支援することを目的としている。
自治体の課題に対し、AIが科学的根拠を持つ「未来の選択肢」を示す試みだ。
AIで政策立案の質向上と地域活性化へ
今回のようにAIが複数の未来シナリオを提示し、政策立案の根拠となる情報を提供する手法は、自治体の意思決定プロセスを大きく変える可能性がある。
特にEBPMの推進においては、定量的な分析に基づいた施策の検討が不可欠であり、AIによるシミュレーションはその信頼性を補強する材料となりうる。
宇都宮市は本研究成果を、証拠に基づく政策立案(EBPM:Evidence-Based Policy Making※)推進の基盤として活用していく方針を示した。政策決定が直感や前例主義に流れやすい中、AIが示す客観的な未来像は、説得力ある政策形成の後押しとなるだろう。
日立システムズは、日立製作所のAIを用いた統計処理とデータ整形を担当し、KPMGコンサルティングは、係数設定やワークショップの実施などの設計と実行を担った。宇都宮市はシナリオ設計や指標選定の主導役としてプロジェクトに関わった。
一方で、AIが提示する未来像はあくまで過去のデータに基づく予測であり、突発的な社会変化や人間の意思を完全には反映できない側面も残る。そのため、AIの結果を鵜呑みにせず、現場の声や地域独自の価値観と照らし合わせて活用する視点が必要となるだろう。
今後は、こうしたAI支援型の政策形成手法が他自治体にも広がることで、地域ごとの課題に応じた合理的な対応策が見出され、持続可能な都市経営の実現につながるということも、十分にあり得るのではないだろうか。
※EBPM(Evidence-Based Policy Making):統計やデータ分析などの客観的根拠に基づき政策を立案・実行する手法。直感や慣例に頼らず、科学的な合理性を重視する政策形成の考え方。