『ダークナイト』監督、次期SF大作をブロックチェーンで構築へ Web3時代のIP共創モデルに挑戦

2025年5月16日、トロントで開催されたCoinDesk主催のコンセンサス・カンファレンスにて、映画監督・脚本家のデヴィッド・ゴイヤー氏が、ブロックチェーン技術を活用した新作SFシリーズ『エマージェンス』を制作していると発表した。
ハリウッドの第一人者がWeb3で物語づくりを再構築
『エマージェンス』は、ゴイヤー氏が立ち上げた新たなブロックチェーン・プラットフォーム「インセンション(Incention)」上で展開されるという。
本作は、宇宙船、古代遺物、ホワイトホールといった王道SF要素を含みながら、世界中のユーザーが参加し、キャラクターや物語を共創できる「トランスメディア・プロジェクト」の中核となる。
ゴイヤー氏は、知的財産の登録・収益化を可能にするブロックチェーン基盤「ストーリー・プロトコル(Story Protocol)」とも提携。同プロトコルはa16zやEndeavorらから8000万ドル以上を調達済みで、分散型のIP管理を実現する。
発表では、ゴイヤー氏とストーリー・プロトコル創業者のSY・リー氏が登壇し、ユーザーが自身の創作を「公式コンテンツ」として取り込まれる可能性がある点を強調。「AIやWeb3がもたらす未来を、アーティストに力を与える形で形づくりたい」との意気込みを語った。
ゴイヤー氏は、従来のハリウッドにおける知的財産構築のあり方に対し「非常にトップダウン型で適応が遅い」と苦言を呈した。その上で、Web3の活用は、よりオープンで共創的なエコシステムの構築を可能にすると主張した。
同プロジェクトでは、2500ページに及ぶ「ストーリーバイブル」をAIエージェント「アトラス」の学習データとして活用。ヒューゴー賞やネビュラ賞受賞歴のあるSF作家らと共に設定を練り上げ、ファンはその世界観をもとに新たな物語を創作できる。投稿されたキャラクターやプロットには、コミュニティによる投票が行われ、編集委員会が採用の可否を決定する。
今後の展望
本プロジェクトは、2025年以降のSF・ファンタジー領域における新たな知的財産モデルの試金石になると見られる。特に『エマージェンス』のようなトランスメディア展開を前提とした構築型世界観は、ブロックチェーンによる作品管理と相性が良いため、技術基盤が整えば類似のプロジェクトが次々と登場する可能性が高い。
また、ストーリーバイブルをもとにAIがユーザーとの創作補助を行うという発想は、創作プロセスそのものの再定義を促すだろう。
今後、コンテンツ産業は「作者と読者の関係性」や「作品の所有のあり方」において大きな転換期を迎えると予測される。
とはいえ、これはあくまで限られた先進的ユーザー層からの展開になる可能性が高く、マス市場への浸透にはインセンションやストーリー・プロトコルがどこまで「わかりやすく」「使いやすいか」が鍵になるだろう。
このプロジェクトはコンテンツ業界の構造改革におけるパイオニア的存在として、一定の注目を集める可能性が高いが、それが主流になるかどうかは、技術と文化の両面からの受容性にかかっている。