米IBM「LinuxONE Emperor 5」発表 AI処理性能と安全性を強化

2025年5月6日、米IBMは新メインフレーム「LinuxONE Emperor 5」を発表した。高性能プロセッサー「Telum II」を核に、AI処理・セキュリティ・運用効率の各面が強化された、企業のAI活用や基幹システム運用に最適化された基盤である。
AIアクセラレーションと高度な暗号技術で企業インフラを刷新
「LinuxONE Emperor 5」は、IBMが企業の基幹業務とAI処理の両立を狙って開発した新世代メインフレームである。
搭載された「Telum II」は、5.5GHzで動作する8コア構成で、従来比でオンチップキャッシュ容量が約40%増加しているという。
AI処理に特化した設計が最大の特徴で、チップ内には最大24兆回/秒の演算能力を持つAIアクセラレーターを内蔵し、前世代と比べて約4倍の計算性能を実現している。
また、32個のアクセラレーターコアを備えた「IBM Spyre Accelerator」にも対応し、大規模なAIワークロードへの適応力を持つ。
ソフトウェア面では、「AI Toolkit for IBM LinuxONE」によって開発者の作業効率が高められており、Red Hat OpenShift AIや仮想化機能の技術プレビューも用意されている。これらの統合により、AI活用の裾野がさらに広がる構図だ。
セキュリティ面でも、メモリー上のデータを暗号化して処理する「コンフィデンシャルコンピューティング」機能が搭載されている。
加えて、将来的な量子コンピュータによるリスクに備えた「ポスト量子暗号アルゴリズム」も実装されており、セキュリティ分野における先進性も強調されている。
TCO削減と高可用性が企業ITに与えるインパクト
LinuxONE Emperor 5は、コスト効率と運用安定性においても企業に大きな利点をもたらす設計となっているようだ。
複数の物理サーバーに分散していたワークロードを一元化することで、5年間で総所有コスト(TCO※)を最大44%削減できるとされている。加えて、99.999999%という高い可用性を実現しており、ミッションクリティカルな業務でも安定した運用が可能だ。
IBMのチーフプロダクトオフィサー、ティナ・タークイニオ氏は、「LinuxONE Emperor 5は、現在のセキュリティと効率性に関する課題に対応するだけでなく、まさに次のAI主導のイノベーションの波にしっかりと対応できるプラットフォームを提供するものだ」と語っており、企業のAI導入戦略における中核として位置づけていることがうかがえる。
特に、データの機密性確保と処理能力向上を両立させた構成は、金融・医療・行政など厳格な要件が求められる業界からの関心が高まるだろう。
ただし、現在のAI市場ではクラウドが主流となりつつあるため、LinuxONEが活用される場面は「高可用性かつ厳格なセキュリティを要する領域」に限定されるとみられる。
すべてをLinuxONEに収束させるのではなく、今後も用途に応じてクラウドとの連携を図る柔軟な展開が求められるだろう。
今後の焦点は、こうしたハイブリッドな価値提案をどれだけ分かりやすく市場に浸透させられるかにあると考えられる。AI時代の基盤インフラとして、メインフレームの存在感をどこまで再構築できるかが注視されるだろう。
※TCO(Total Cost of Ownership):ITシステムなどの総保有コストを指す概念。導入費用だけでなく、運用・保守・電力消費などを含めたトータルの費用評価指標。